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ツレがうつになりまして。のcrispのレビュー・感想・評価

ツレがうつになりまして。(2011年製作の映画)
3.8
堺雅人さんの安定の演技に見ててほっとする。
そして、こういうグラデーションの感じでうつになっていくんだろな、というのがよく伝わってきた。
堺雅人さんの演技はほんと邪魔しないね...そういう人物として集中して見てられる。それなのに唯一無二の堺雅人の個性を感じるから良いなあ。

頑張り屋さんと、ゆるめの奥さん。このバランスの二人でよかったね。
二人とも頑張り屋さんだと、二人ともポキンとなっちゃうかも。または責めたり、休むわけにはいかない、なんとかならないか、ともっともっと深刻になっちゃうかもしれない。
でも今作のようにいい意味でほどよく「適当」ができる人、比較的マイペースな人であることは救いだったんじゃないかな、と思う。
「大丈夫だよ、休もうよ」
「なんとかなるよ」と本気で思ってくれている人の存在はでかい。

鬱になる人は「自分がしっかりしなきゃ」と自然と人一倍思ってる節があるから、妻が「どうしよう」となっていたら安心して休養できなかっただろう。
それにしても、本当に日本の社会で鬱になったらどうしたらいいんだろう。
「ゆっくり休養が必要」なんだけど、ゆっくり休養、物理的にできるのだろうか?休むための生活費は、大丈夫なのだろうか。
金銭的な不安が、しんどいときにさらに心にダメージを与えるよね。

元々ケセラセラではない国民性もあるだろうけど、今この現代社会で、休む、ちょっと休止、ということが物理的にも心理的にも、簡単にできるとは思わない。
すぐ後ろには崖があって、走るのをやめると落ちる。そんなベルトコンベアに乗ってるような。止まったら、それは死を意味する、みたいな。

日本で自殺率が高いのも、「もうこれ以上どうしようもない」というGAME OVER感があるんだろうな。リセットボタンを押すように、自殺を選択する。
...と、考えれば考えるほど鬱々としちゃうけれども、事実でもある。
なんとかなるよ、と支えてくれる人が身近にいたことが、この「ツレ」さんの最大のラッキーだったと思う。
うつになったら、なりそうになったら、ストイックな人や言葉からはできるだけ距離を置いて、
良い意味で「適当」で、生きれている人の近くにいること、関わることがとても大事だと思う。自分もそういう友人に救われた。
何をしてくれたわけじゃない。その人はただ食べて、寝て、好きなものを見て。〜すべき、ではなく、ただただ本能のままに生きてた。まるで猫のように。そんな友人と何日か過ごしていると「そっか。人間本来これでいいのか。」と思えるようになった。完全ではないけれど、凝り固まってた「〜しなきゃ」が少し、ほぐれたように思う。
「うつになる」ということは実際辛いことだけど、
「そのままの生き方だとこれ以上無理だぞー。生き方変えろ〜」という心身からの強制STOPだと思う。何十年も積み重ねたライフスタイルや考え方を変えることはとてもハードなことだけど、必ず、その後の生き方が前よりも生きやすくなったと、ゆっくりだけど感じられていくはず。
作品中でも
「ツレがうつになった原因じゃなくて、うつになった意味を考えるようになった」と言っていた。そう、きっと鬱になったのはこれからの人生もっと楽に生きていい、そのための微調整する期間。
パソコンがアップデートする時、いったんシャットダウンして再起動するように、どうしてもシャットダウンは一時、必要なんだろう。


・・・

「休み、は休むことが宿題なんだよ」
「あ...焦らない と...特別扱いはしない で...できること・できないことを見分けよう」
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