義民伝兵衛と蝉時雨

怪奇な恋の物語の義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

怪奇な恋の物語(1969年製作の映画)
4.1
物質主義や営利主義に支配された現代社会の中で、窒息寸前になり神経衰弱に陥ったとある芸術家が、静養先の田舎の古屋敷の中で取り憑かれた艶かしくも血生臭い戦慄の幻想。独創性に溢れた前衛的な映像表現には芸術映画とジャッロ映画の魅力が鮮やかに溶け合っている。現実と幻想の狭間を行き来する映像表現の見事さは勿論のこと、降霊シーンの陰鬱な戦慄感は取り分け脳にべっとりと焼きついて離れない。物質主義や営利主義という背景にある社会のディストピア感、そして芸術家の繊細さや過敏さが引き起こす妄想の狂気。それらが見事に抉り出されたジャッロ的芸術映画、はたまた芸術的ジャッロ映画だった。エリオ・ペトリ、フランコ・ネロ、ヴァネッサ・レッドグレーブ、エンニオ・モリコーネ、ジム・ダイン、などなど、携わった面々も素晴らしい表現者ばかり。キューブリックの「シャイニング」は原作はスティーヴン・キングでも、十中八九本作品も下敷きにしている。