ジャッロ史上最もアヴァンギャルドとされるアートホラー。監督は「殺人捜査」(1970)のエリオ・ペトリ。撮影は「サスペリア2」(1975)のルイジ・グヴェイレ。音楽エンリオ・モリコーネ。原題「Un tranquillo posto di campagna(田舎の静かな場所)」。
猟奇的な悪夢に悩まされる画家レオナルド(フランコ・ネロ)はスランプから脱しようと、恋人フラビア(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)と同棲するミラノを離れて田舎にアトリエ用の屋敷を借りる。ところが悪夢は続き奇妙な出来事も頻発。やがて、戦時中に屋敷の娘ワンダが空襲による銃撃で惨死した過去を知り、町の人々を招いて降霊会を開くのだが。。。
これまでに観たジャッロの中でも映像がベスト級に好み。冒頭からパンツ一丁で縄緊縛されたフランコ・ネロの姿。周りを取り囲んだ家電製品に恋人が次々と電源を入れていく謎のプレイ・・・サイケで白昼夢的なビジュアルが、モリコーネ史上最も前衛的な劇伴にのって目まぐるしく展開していく。精神錯乱の進行と共に過激さは増していき、終いには観ているこちらも現実と妄想の区別が判然としないトリップ感覚に陥っていく。惨殺された少女の遺影を集める猟奇趣味。屋敷の中を自転車で走る赤い服の少女は耽美趣味。終盤の降霊会シーンでは望遠レンズを用いたドキュメンタリータッチの画作りと、引き出しの多い映像演出にすっかり没入した。
ここで重要なのは、精神錯乱の表現に乱雑な映像は決して用いられず、超絶技巧のカメラワークとシュールな美術がベースにあること。劇中絵画はアメリカ前衛画壇の巨匠ジム・ダインが描いている。空間を活かした撮影構図にはアントニオーニ監督作品を想起したが、それもそのはず、グヴェイレ撮影監督は「情事」(1960)を撮影した人物で、ちなみに恋人を演じたヴァネッサ・レッドグレーヴは「欲望」(1967)で準主演。
初期ジェス・フランコ監督が象徴するユーロ・トラッシュホラーの美学を、一流スタッフキャストの力で前衛アートへと引き上げている一本。本作をジャッロの範疇に入れるなら、個人的にはカテゴリー内ベストかもしれない。