りっく

マッチ工場の少女のりっくのレビュー・感想・評価

マッチ工場の少女(1990年製作の映画)
4.2
冒頭から、マッチ工場の各セクションで規則正しいリズムを刻む機械のシステマティックな動きのカットが心地よく繋がれていく。そして出来上がった商品を識別する主人公の女性がようやく登場する。「労働者3部作」でありながらも、もはや退屈な労働でさえ、機械に取って代わられようとしている。ただひたすらマッチ箱を見つめる彼女の虚ろな目が、本作のトーンを決定づける。

冒頭の心地よさとは裏腹に、彼女の身に降りかかる不幸が数珠つなぎのようにモンタージュされ、文字通り犯罪に手を染めていく転落劇である。テレビの音声やラジオから聞こえてくる歌以外は、ほとんど台詞がない冷めきった空気が全編を覆っているが、彼女の心中を察すると、観ているこちらがいたたまれない気持ちになってくる。

カウリスマキは味気ない日常生活の範囲を淡々としたカットの積み重ねで端的かつ具体的に描くのに長けている。だからこそ、その生活範囲をたまには少しはみ出して背伸びしたい、あるいはそこからいつか脱出したいという想いを、こちらも具体的かつシンプルな行動で表してみせる。ミニマムな物語だが、そこには確かな普遍的がある。
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