レインウォッチャー

モーターサイクル・ダイアリーズのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

3.5
チェ・ゲバラがまだチェ・ゲバラではなかった日々の記録。

祖国アルゼンチンからくたびれたバイク一台で南米大陸を縦断し、北端ベネズエラまで。若き日、医者の卵だったチェ・ゲバラ=エルネスト(G・G・ベルナル)が、友人アルベルトと共に敢行した旅を描いた伝記的ロードムービーだ。

着の身着のままの貧乏旅行、時には極限に追い込まれる2人に、南米の自然風景が荘厳に迫る。古代インカの歴史が脈打つ高山地帯の霊的な佇まい、昼夜でまったく表情を変えるアマゾン河の時を超えた流れ。
アコースティックとエレクトリック、両方のギターをシーンによって使い分けた劇伴が映えて、エルネストの思索を包み込んでいく。

しかし、中盤以降はそういった所謂ロードムービー的な旨味は鳴りを潜めて、ポリティカルな面が前面に出てくる。
そう、これはエルネストがチェ・ゲバラになる物語、彼は道中でインディオ(インディヘナ)やハンセン病患者の暮らしの現実に直面し、その欠片を拾い集めていくのだ。母に充てて書く手紙を通して思考を整理し、リマを過ぎたあたりから彼の中で確固たる何かが目覚める。

大陸の多様な風土をとらえた満足感のある作品だとは思いつつも、ちょっとエルネスト=ゲバラをヒロイックに描き過ぎでは?というきらいもあって、乗り切れないところもあった。演じるG・G・ベルナルの端正な顔立ちや、どちらかといえば三枚目のアルベルトとのあからさまな対比なども含め。
最終的にはイッテQ的なムードに収束してしまうのも、なんだかアンフェアに思えてモヤってみたり。このへん、わたしが歴史/伝記モノを不得手とする所以のひとつである。当のゲバラも、「英雄でも何でもないただの男だ」と言い遺したわけだけれど。