青二歳

手袋の失われた世界の青二歳のレビュー・感想・評価

手袋の失われた世界(1982年製作の映画)
4.7
イジー・バルタのストップモーションアニメーション。映画史へのオマージュ。
工事現場で手袋とフィルム缶が発見された。映写機にかけてみると、それは手袋たちの宝物のような映画だった。キートン、メロドラマ、ドイツ表現主義、アンダルシアの犬、フェリーニ、未知との遭遇…
フェリーニをベリーニと書いてるところで我慢できず吹き出す。フェリーニのパートを観て、どうせならティント・ブラスの“カリギュラ”でも良いんじゃないかと思ったり。

個々のオマージュがとても楽しいのだけれど、この短くも愛に溢れた映画をどう見るかは迷うところ。単なる映画史オマージュをやってみせたというより、映画/映像というメディアを論じることが目的とも思える。
オープニングはまるで映画フィルムが地層から発見される歴史的遺物さながら。遺産と見なすということは、フィルムは時間を超えるメディアとして大いに可能性を秘めたものになる。印字されたインクは消えてしまうが墨は数百年残るように、フィルムもロマンに満ちたメディアなのだ。私たちはそのメディアのおかげで、現代でも100年前のキートンに出会える。
だがそう考えると、ラストシーンに至り一気に薄ら寒いものになってしまう。フィルムはロマンを背負うものではなく、ただ消費され捨てられるものであると断ぜられる。容赦なくフィルムと手袋を埋め打ち固めるのはセメントである。
とまれ、そのように考えるのが適切かは分からない。映画フィルムというメディアを語るのではないかもしれない。例えば、過去の名作を人類文化のアーカイブとして大切にせず、消費する私たち観客への批判かもしれない。
17分の短編から、色んなことをあれこれと考えるよい思索を与えられました。

単純に映画史への賛歌として見ればこれ以上ないくらい楽しい作品。だって手袋でフェリーニやってるんですもん。多分サテリコン。
青二歳

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