さすらいの用心棒

激動の昭和史 軍閥のさすらいの用心棒のレビュー・感想・評価

激動の昭和史 軍閥(1970年製作の映画)
3.6
二二六事件から太平洋戦争に突入するまでを、東條英機総理(小林桂樹)と実在の新聞記者(加山雄三)を中心にドキュメンタリータッチで描いた東宝8.15シリーズ。

岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』『激動の昭和史 沖縄決戦』などの大傑作に連なる東宝8.15シリーズを、『日本のいちばん長い日』で候補に挙がった堀川弘通が満を持して監督にあたる。
東條英機を主人公にした東映の『大日本帝国』では、浪花節たっぷりに悲劇の人物として描いたのに対し、本作ではやがて野望と狂気に憑かれてゆく様子を一歩引いた視点から描いており、彼が何を考えていたのかは最後までよくわからない。組閣からではなく、軍部が力を持つきっかけとなった二二六事件から描いているのも、作者の意図が東條を描くことではなく、戦争の発端を俯瞰して描くところにあったためだろうか。
だが、それだけではストーリーが物足りないと感じたのか、並行して「竹槍事件」を付け足している。映画のなかでは言論の弾圧を象徴する事件として取り上げられているけど、陸海軍の喧嘩で新聞が海軍側に付いたことへの報復という側面もあるためだろうか、担当記者の名前を若干もじっている。
それにしても、記者を徴兵してそれを誤魔化すために無関係な250人も徴兵するという横暴が行われていたとは、空恐ろしい。
そのほか、天皇と杉山参謀総長と永野軍令部総長とのやりとりや、及川海相の「一任する」という発言、真珠湾攻撃前の山本五十六など、押さえるべき有名なエピソードが映像化されており、正直、昭和史をちょこっとかじっていなかったらどこまでが創作なのかわからなかったと同時に、100%楽しめていたか怪しい。そして、たぶん楽しめていない(笑)
重厚感を醸し出すためなのか、おそろしくテンポが遅いのがもどかしいが、それ以上に小林桂樹の狂気に憑かれた演技に見入ってしまう。『江分利満』で普通のサラリーマンを演じていた人が、とうとう総理を演じるとは。
米内海軍大臣・山村聡、東郷外務大臣・宮口精二、木戸内大臣・中村伸郎など『日本のいちばん長い日』と同じ役のキャストも多く、三船敏郎、志村喬、三橋達也、黒沢年男、天本英世、寺田農、田村奈巳などまさにオールスターなのだが、どうもまとめ切れていない気がする。ラストシーンも編集次第ではかなり強烈な印象を残すのに、やっぱりテンポが遅いせいで失敗しているのが実に惜しい。8.15シリーズは全部岡本喜八が監督すればよかったんじゃないかと思ってしまう。