みやさか

東京物語のみやさかのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
5.0
2021.6.13 鑑賞

「淡々と人の心を映した名作」

普段は洋画ばかりだが、たまには日本映画の傑作を観ようと思い立ち、初の小津作品。

ドラマチックな演出は特になく、老夫婦の上京と子供達とのやりとりが淡々と映し出されてゆく。

昔の映画って、分かりづらいのかなぁと肩に力を入れて見始めたけど、わかりやすい人物の心理描写と行間を読むことが求められる描写の割合がいい塩梅で、力むことなく作品に没頭できました。

紀ちゃんの自分の将来への思いが、とみとのやりとりでは表情や仕草から推測する必要があったけど、終盤の周吉との会話で、答え合わせのように思いが吐露されたところは、巧いなぁと思った。昨今の観客に人物の思いや感情を理解させる為に、説明セリフを不自然にブチ込むといった粗雑さがない。必要な場面でしっかりと答え合わせさせてくれる。

近年の邦画と違って、家族ものだからといって、下手に感動を煽るようなシーンもなく、写実的な描写が多いのも良かった。

一見子どもたちは、皆冷淡に見える。でも現実で作中の子どもたちと同じような状況だったら、と考えると、子どもたちの振る舞いや反応はあんなものなのかもしれない。

紀子は東京メンツの中で、夫を亡くし、子どもいない、という他の二人とは違うある種特殊な立ち位置だった。勿論、思いやりがあって、面倒見が良い人柄であることも間違いないのだけど。

人との絆とは、「そのときに置かれた状況で変容するもの」いうのが、本質なのかもしれない。

そう考えると、家族愛に対しては、理想ばかりが正論に聞こえるけど、実際は家族といっても所詮は他人であるし、家族愛をたてに無償でなんでもできるもんじゃあないのが現実なのかなぁと。


理想通りでいられないのが、人間だ。
変わりたくないと思ったって、変わってしまうのが人間だ。
これを意識できてるのは、紀ちゃんだけ。紀ちゃんを挟んで、無意識に変わってしまっている東京・大阪勢とこの現実をまだ知らないで変わってしまった人たちを毛嫌う尾道勢(京子)の対比が見事だった。


最後の紀ちゃんと周吉の会話はジワジワ切なさが押し寄せてきて、目に涙。
小さな懺悔と、それを気にも留めない、優しさと感謝の応酬が心に響く。笠氏の演技はジワジワときいてくる。名演。

洋画の名作と遜色ない傑作でした。
名作は、洋画邦画問わず、人の心の写し方が巧い。脚本や演技力が、はやり今の日本映画とは違うと実感。

暫くは邦画の名作を見漁ってやろうかと思いました。