みやさか

シン・エヴァンゲリオン劇場版のみやさかのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

2021/3/12,14 鑑賞

「少年は神話にならずに、大人になった」

シンジくん、本当に成長した。

前半パートの鬱シンジくんは、決して旧シリーズのシンジくんみたいな外罰的で自己愛優先のシンジくんではなかった。

他人と繋がることの素晴らしさを知った分、自分のせいで周りの人が不幸になってしまったことに、耐えられない。他人との繋がりを断つ。それが他人を不幸にしてしまった自分のなすべき贖罪である。

前半のアスカや旧友と何がなんでもコミュニケーションを取らなかったのはそういう思いもあったからだと思う。

黒綾波に、「ほっといてくれよ!」「なんで、皆こんなに優しくするんだよ!」って言ったのは、そういうこと。

でも、黒綾波に言われた「あなたが好きだから」。この言葉に、それでも人と繋がりたいと思う自分に気づいて、シンジくん復活。彼を立ち直らせたのは、絶対にあの言葉だったと思う。

その後の黒綾波との別れは2回観ても涙不可避。ヴィレに戻ると決心したシンジくんの目元に、薄ら見える、涙を拭った擦り跡が、憎い。こんなの、泣くやん。

そこからのシンジくんに迷いはなかった。
今まで逃げてきたアスカと向き合い、ミサトさんと向き合い、そして自分にとって1番のトラウマであるゲンドウとも向き合う。

旧シリーズでは、自分に1番のつながりをくれるはずの肉親のゲンドウと、彼は最後まで向き合おうとはしなかった。拒絶されると1番ダメージが大きいから。

でも、新シンジくんは向き合った。最初は拳を交え、そして言葉を交え。
「父さんを知りたい」
こんなセリフがシンジくんの口から出てくるとは。
「父さんは何がしたいの?」
旧シリーズ終盤で、シンジくんが散々問われた質問を、今度はシンジくんがゲンドウにするとは。

ゲンドウと向き合うことで、旧シリーズの自分と向き合ってもいたのかもしれない。

「泣いたってしょうがない。涙で救えるのは自分だけだよ」
「多分辛いけど、僕はもう大丈夫」
そういって、アスカやカヲルや綾波を送り出すシンジくんには涙が不可避。

本当に、他人を受け入れることができるようになったんだね。自分が傷ついてでも、他人が幸せになるように、願い行動できるようになったんだね。

赤い海の浜辺で、「惣流」アスカラングレーと向き合うシンジくん。
旧劇では、自分を自分たらしめる他人が必要と願いながらも、他人がいることで傷つくことを恐れて、首を絞めることしかできなかったシンジくんが。

当時のアスカの気持ちに、自分の気持ちに向き合い、言葉で伝えた。もうもどらない、でもあのとき確かに抱いていた恋心を伝えることで、アスカに決着をつけた。
このシーンがあったから、旧劇もアスカも報われたよ…

それから、シンジくんはエヴァの無い世界を望んで世界を再構築する。

最後に駅のホームで大きくなった姿を見せるシンジくん。声変わりしていることは、彼がもう14歳ではないことを示す。
「14歳のシンジくんが、エヴァにのって使徒と戦い、神になって世界を創造する」
そんな円環的な物語から、脱却して、
14歳から成長する。大人になる。

「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」という言葉の意味は。

そもそもシリーズを通してエヴァとはなんだったんだろう。多分綾波の「絆だから」
という言葉がそれだ。

自分と他人を結びつけてくれるもの、
乗ることで誰かと関わりを持てるもの、
人とのつながりを持つことで、自分の存在価値を教えてくれるもの。

特にシンジくんにとっては、父ゲンドウと自分を結ぶものだった。

でも、もうシンジくんはエヴァは自分に必要がないと悟った。エヴァがなくても、自分は、人は、他人を思うことができる。繋がることができる。
そんな世界であってほしい。

神から作った絆よりも、人間の可能性を信じた。神からの卒業。人間としての成長。

これが、シンエヴァンゲリオンのテーマの一つであったのでは。

庵野監督は、本当に人が好きなんだなぁ。
愚かだけど愛すべき、絶望の中に希望を見つけることのできる唯一の存在、ヒト。

それを描いたのが、エヴァンゲリオンシリーズであったと思います。

庵野監督に、エヴァンゲリオン制作に関わった全ての方に。ありがとうございました!