みやさか

竜とそばかすの姫のみやさかのネタバレレビュー・内容・結末

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

2021.07.18 鑑賞

「クライマックスシーンは天才、故に、
そこ至る脚本が疎かに…」

「時かけ」「ウォーゲーム」「サマーウォーズ」が大好きなので、新作は楽しみにしてました。以下感想。ネタバレ含みます。

【残念だった点】
・CG技術の乏しさ。
Uの世界観はまんま、サマーウォーズのOZ。今回はバーチャル空間だけでなく、アバターも全てCGだったが…。

正直、日本のCG技術はまだまだ未熟だと実感。アバンタイトルでBellの壮大な歌唱シーンがあるけど、後述するように歌が素晴らし過ぎたため、CGの違和感、口の動きの違和感が非常に勿体ない!と思った。全編手書きの作画の方が良かったのではと、思わざる得ない。

・活かしきれていないオマージュ作品。
『美女と野獣』のような竜とBellのやりとり、『レディープレイヤー1』や『シュガーラッシュ』のようなアバター、Uの創立設定、『鉄腕アトム』のようなジャスティス集団、『サマーウォーズ』のような現実世界の主人公の取り巻き。

個人的には、作品のオマージュというか、設定を真似るのは、作品が面白くなるなら全然あり。今回はそれが上手く機能してたかと言われると…脚本的には微妙。世界観的にはまぁまぁ有りだったと思う。

とかく感じたのは、細田監督は、キャラのビジュアル・性格の書き分けが一辺倒で他の作品と被る。なので、観ててバラエティの少なさを感じてしまうんよね。逆に、そういうキャラを観ていると、「あぁ、細田作品だなぁ」という安心感はあるけど。

・おざなりな脚本。
①2hの間に様々なトピックを詰め過ぎてしまった感。
②クライマックスから逆算して、そこに至らせるための脚本になってしまった感。

①は、本当に内容が盛り沢山すぎて、どれも薄くしか、もしくは全く触れられず終わってしまったので、結局どこを重点的に描きたかったのか、印象に残らない。

主人公の成長物語?青春の甘酸っぱい恋愛?主人公と家族の繋がり?行き過ぎた正義への批判?ネットの誹謗中傷問題?子供へのDV問題?

この辺りは、もう少し整理しても良かったと思う。『時かけ』や『サマーウォーズ』は、もっとシンプルで、伝わりやすかった。

②個人的には、本作の最大の見せ場は、クライマックスで、主人公が姿を明かして歌唱するシーン。監督もこのシーンがまず頭にあって、これを描きたいと思ったのではとも感じた。
 
それはいいんだけど、クライマックスシーンありきの、そこに至るための脚本となってしまった感が猛烈に否めない。キャラが、そこに至るように、振る舞うので、ちょこちょこ違和感がある。展開も、ご都合主義とツッコミされても致し方ないかなと。もう少し、手の込んだ脚本にした方が良かったのではと思えてならない。

【良かった点】
・魅力的な音楽
Bellの圧倒的な歌唱力!これは、映画館で聞く価値がある。序盤、中盤、終盤隙がなく、魅力的な歌声に、聞くたびに鳥肌がたつ。音楽に関して言えば、この映画の評価はめちゃくちゃ高い。そう言えるほどの満足感。

・クライマックスシーンは天才のなせる技
クライマックス、BellがUで正体を明かして歌うシーン。あの構図素晴らしい。仮想ワールドという非現実な空間に、女子学生という日常的な存在がポツンと浮いている。この場面、この描写はすごい。日本人って、青春期の女の子×非日常or非現実の組み合わせ、好きよね。それを見事に表現したあのクライマックスは本当に、それだけでも観る価値がある。
細田監督は、このシーンを描きたくてこの映画を作ったのでは?と思えるくらい。頭に浮かんだものを、見事に表現しきったね。

このクライマックスのために、1900円払う価値は有り。

【総評】
いろいろとツッコミどころのある映画だった。けども、本作は高く評価したい。それは、「監督が作りたいものを作った」と感じられたから。序盤で必要あるか?と書いたオマージュも、お馴染みのキャラクターも、最後のクライマックスも、裏を返せば、全部細田監督が表現したかったもので。しっかりとそれができていたと思えた。今の邦画界で1番必要なこと。作り手が作りたいものを作る。資金提供者やしょうもない観客の意見に左右されずに、表現したいと思ったものを表現する。監督のキャリアが横から口を出させなかったのか、製作費がたっぷり取れたのかわからないけど、これができていた。今後の期待も込めて、評価は4としました。