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東京物語のめるのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.9
やっと観ることができました。
小津安二郎監督『東京物語』


笠智衆のおじいさん。
年はまだ40代後半くらいじゃなかろうか??
いやぁ~、20代から老け役をやっていたと聞いたけど、ここまで違和感なくおじいさんを演じられる役者さんもそうそういないよね。
このあと亡くなるまで約30年も生きていく人間に見えない。すでにこの貫禄。

ゆったりゆったり時間が流れてゆく映画でした。
これだけゆっくりと事が進んでいくのに、退屈の文字は欠片も出てこないのが不思議です。
それだけ私たちを惹き付ける魅力がこの映画にはあるのだと思いますが、果たしてそれは演出なのか、役者の演技なのか、脚本なのか、音楽なのか、昭和の雰囲気だからなのか、よく分からないのです。
でも、これを見ているだけで"今"はせかせかした世の中なんだなぁとしょんぼりしてしまいます。

大きな事件も起こらず淡々と日常が過ぎていって終盤に人が死ぬ、というのが小津安二郎監督の定番なのかな?
『東京暮色』と似たような構成ではあったけど、こちらのほうがテーマもよく理解できた気がします。あちらほど突拍子もない死ではなかったのも。
あちらは冬でこちらは夏。50年代のどちらの季節の過ごし方も見ることができて興味深かったです。冬は火鉢、夏はうちわが必需品かな。

笠智衆はいい役者さんですね~。
演技が棒だと言われることもあるようですが、演技が棒なのではなくて笠智衆の話し方がああなだけで、自然な演技=素の笠智衆でいいなぁと思います。
そして、笠智衆は涙を流さないが、瞳の揺らぎや唾を飲み込む仕草で泣くのを堪えている男を見事に演じていて、さすがだなと思いました。
ちなみに、「ハハハ…ハァァ~」←この力の抜けたような笑い方の余韻(?)が大好きなのです(笑)

人は不思議なものですね。
血のつながりだけが愛情じゃない。しかも、今回新たに知ったのは、子どもが大きくなると自分の親よりも連れ合いとの時間に重きを置きたくなるということ。後先長くない親との時間より妻や旦那と過ごす時間のほうを優先してしまう。
お金の問題も絡んでくると人間、がめつくなるね。大人になると抱える問題も増えて、いつまでも悲しんでいられなくなる。
長女も長男も親を厄介者のように扱っていたけど、それも周吉(笠智衆)の紀子(原節子)に話した最後の台詞で納得がいく。

人の命はあっけない。
長女もそう言っていたけど、同じタイミングで私も同じことを思いました。
さっきまで元気だった人が急に亡くなるのもおかしくない。
でも、この時代は医者に連れていって入院して検査して手術をすることはしなかったのかな。医療器具がそこまで発達していなかったのかもしれないし、大きな病院が近くになかったのかも。そう考えると今の時代は今の時代で良いところもあるのかなぁ。

東京が思っていたより静かすぎると思ったら熱海はうるさくて眠れなくて、子どもに厄介者扱いされて宿無しになり、酔っ払って千鳥足になりながら見知らぬ男を連れて帰って…
ちょっぴり切ないけどクスッと笑ってしまうような場面もありました。

東野英治郎(坪内散歩先生、水戸のご老公様)がいらっしゃいましたねー!
ここで笠智衆と共演していたとは。ちょっとだけ若かった。

酔っ払った笠智衆が可愛かったです。こんなことを言うと「コリャッ!」と叱られそうですが、とっても好きです。
長女に帽子を叩き付けられてもクークー寝ていて面白い。さっきまではドライで親に冷たい長女だなと思っていたのに、このシーンだけは激しく同情しました(笑)

居酒屋の名前が「加代」で、この前観た『家族はつらいよ』の居酒屋も「かよ」だったから、ここから取ったのかな~なんて思いました。

まだ完全に理解していない部分や年を取ったときに改めて気づくこと共感することがあるだろうということで、スコアは0.1だけ下げておきます。自分のために。
しかし、後世にずっと残していきたい国宝のような映画に感じました。
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