モスマンは実在する

東京物語のモスマンは実在するのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
3.0
刺激の強い映画ばかり観てきたので、本作を観始めた時は本作を少し退屈に感じてしまった。観終わる頃には、退屈に感じてしまった自分が恥ずかしくなった。

本作が徹底して描くのは人間のコミュニケーション。細かい日常会話描写や「人がコミュニケーションにおいて様々な顔を使い分けている描写」ばかりが続く。最初は退屈に感じられたが、徐々に映画側のペースにのまれていく感覚が心地よかった。人物描写も生々しく、「あ!こんなやついるわ!」というキャラが多かった。散髪屋を営んでる長女・金子志げなどは、どんな一族であっても親戚の集まりに一人はいそうなものだ。

本作は老夫婦が息子宅を追いやられ、神社の裏に腰掛けて休んでいる場面しか画面が動かない。この場面では、老いた夫婦が途方に暮れている表現としてだけでなく、その後の運命が定まる重要な局面のようにも感じられた。

物語の登場人物のなかから後半は一人の人物に集中して感情を描き、その人物を前向きな方向に進んでいかせるラストなどは同監督の「東京暮色」なども連想させられた。