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セールスマンの死のtakのレビュー・感想・評価

セールスマンの死(1951年製作の映画)
3.8
個人的プロジェクト「名作映画ダイジェスト250」(ロードショー誌80年12月号付録)制覇計画のためセレクト。

主人公ウィリー・ローマンは62歳のセールスマン。販売の仕事で各地に出張を繰り返す日々を送っている。若い頃のように稼げないが、ローン返済、保険金支払い、自立できない息子たちと目の前には問題あれこれ。そして、過去の自分や家族の幻影が時々頭に浮かび、ところ構わず大声で独り言を繰り返すことも多くなってきた。新たな仕事を始めたいと言い出す長男だがうまくいかず、自分も配置換えと昇給を頼みに行くが受け入れてもらえない。やがて家族がこれまで抱えてきた気持ちが明らかになっていく。

フレデリック・マーチが演じてきた役にこれまで何度も感動させられた。個人的に印象深かった作品は、家に立てこもる犯罪者に立ち向かう父親を演じた「必死の逃亡者」、法曹界の大物を演じた「風の遺産(聖書への反逆)」。本作で演ずるウィリーは、販売の仕事で長年家族を養ってきた人物。老いに直面して、これまで通りにはいかない社会の厳しさに苦悩すし、もがき続ける姿が映画の最後まで続く。まさに力演だ。

僕が若い頃にこの映画を観ていたら、主人公のようになりたくないと思って、歳をとることが怖くなったかもしれない。過去の栄光にすがる主人公を哀れだと思ったに違いない。だが主人公ウィリーの年齢に近づいてきた今の視点だと、彼の言動に共感はしないけどわかる気はする。過去を誇らしげに語るのは、仕事一辺倒の人生だったから、きっとそれしか話題がないのだろう。高田純次の名言に「歳とってやっちゃいけないのは、説教、昔話、自慢話」ってのがあるが、ウィリーがやってるのはまさにそれだ。

観ていて辛くなる場面も多い。溺愛する子供の信頼を裏切ってしまう場面。独り言と妄想で我を忘れてしまう老人の姿は、アンソニー・ホプキンスの「ファーザー」とは違った怖さがある。登場人物たちをとりまく現実の厳しさを描くことも忘れない。そして経済的な窮地に立たされて、尊敬する伯父の幻影と会話する場面。その後の決断とラストには胸が苦しくなる。暗い話ではあるけれど、この映画で、ちょっとだけ生き方について考えてみるのもいいかもしれない。
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