ちろる

非常線の女のちろるのレビュー・感想・評価

非常線の女(1933年製作の映画)
3.8
ズベ公(不良)って言葉は小津作品で習いました。
この時代の映画の台詞には、時々え?っていう言い回しや言葉がたくさん散りばめられていてたまに観るとほんと楽しい。

因みにこの作品においてのトップで気に入った台詞、それは
「神様がこしらえたものの中でも音楽はなかなかのもんだぜ。」という岡譲司さん演じるチンピラの格好つけた時に放ったお言葉。
私妙に痺れてしまいまして、一瞬私ズベ公になって彼についていきたいとさえ思いました。
この作品はなかなか小津には珍しいアメリカナイズされた和製ギャングもの。
当時のチンピラの雰囲気ってこんな粋な感じだったの?だとしたら悪いのもいいし、
小僧たちが憧れるのも無理はないとふと思ってしまいました。
そしてこの作品について特記する最大の点、それは話の展開が全く読めないこと。
登場人物は主に田中絹代さん演じるタイピスト兼情婦の時子、岡譲司さん演じる三流ヤクザ襄二、三井秀夫さん演じるチンピラ学生宏、そして水久保澄子さん演じる宏の姉和子。
始まりは時子の話に見えていたのにだんだんと和子がヒロインのように可憐に描かれる。
けど、一方で襄二の視点からもじっくり描かれる恋愛模様もあるので、まぁ、感情移入する間もなく振り回されてしまいます。
ある程度何も事件が起こらない、もしくはある程度想定通りの事件が描かれる他の小津作品の中ではとても異質にさえ感じる。
それ故に初期のこの作品の雰囲気はとても新鮮。
ビクター犬が印象的に挿入されるからスポンサーなのか?
後で知ったのだけど、この撮影補助は後に黒澤に並ぶ巨匠、木下恵介監督だったらしく、個人的には木下好きの私としてはなんだか特別な存在に感じる作品でもありました。
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