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デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

サダム・フセインの長男ウダイは、圧倒的な権力をバックにやりたい放題のドラ息子として知られていた。あるとき同級生のラティフを呼び出す。背格好が似ているラティフが予想以上に自分に似た風貌に成長しているのを見て上機嫌なウダイは、自分の影武者にならないかと持ちかける。

イラクの元大統領サダム・フセインの長男にして権力を笠に数々の蛮行を繰り返し、悪名を轟かせた男ウダイ・フセイン。
本作は、彼に似ていたばかりに影武者をさせられることになった青年ラティフ・ヤヒアの著作を映画化した作品。
どこまでが事実かはわからないが、まさに「事実は小説より奇なり」と言える実話ベースのドラマの佳作だ。

断れば拷問を受け、その上、家族を殺すと言われたら選択肢などない。
ラティフはウダイとは旧友でもあるが、絶大な権力の前では何も言えずに無力だ。
(「お前の方が大きいから、男根を少し切ろう」というのは笑えない冗談だが、)鼻や歯などの整形で微調整を施し、ラティフは強制的にウダイにされられる。

権力者、しかも国のトップでしかも独裁者の息子ウダイの生活はワガママ放題だ。
ウダイは異常な女好きで、目を付けられた女性には必ず悲劇が起こる。
年端も行かぬ少女を拉致し、他人の花嫁までも美人とあれば手篭めにする。
関係者は殺されるのを恐れて、泣き寝入りである。
金持ちでハンサムだが、カッとなると、父親の側近であろうと血祭りにあげる凶暴性の持ち主。
酒とクスリに溺れてシラフの時がなく、怒らせたら何をされるか分からない気性は恐怖でしかない。
「生まれた時に殺せば良かった」と、たまに出てくる父親のサダムが後悔するほど、サイコパスなボンボンである。
そんな危険な男と暮らすラティフの影武者生活を物語は追っていく。

見事なのは、ウダイとラティフの「一人二役」を演じた主演のドミニク・クーパーの演技。
アカデミー賞に「一人二役」部門があれば必ずや受賞できる名演である。
(同一人物なので当たり前だが)見た目はそっくりなのに、何も言わずに立ち姿だけでもウダイとラティフのどちらかがすぐ分かる。
影武者ラティフがウダイの真似をして、兵士たちに演説をするところなど、狂気が伝染したかのようで鳥肌モノだ。

金で贅沢を尽くした描写、残酷なシーンも交えながら紹介されるエピソードの数々は、あまりにも詳細。
個人的に印象に残ったのは、偶然ラティフが見かけたサダム・フセインと彼に瓜二つの影武者がテニスをしているシーン。
もしかしたら世界史に残る独裁者が実は処刑されておらず、影武者が犠牲になっていたのでは…?、などと想像するとゾッとする。
衝撃の連続に、本作がある程度「実話」であることに疑いの余地はないだろう。

ラストは、何とか国外に逃げ出したラティフが舞い戻り、花嫁がウダイにレイプされ自殺を遂げた花婿とウダイに報復する。
史実でもウダイは暗殺されかかっており、股間をラティフに撃たれるのは、まさに「天罰」でスッキリするのだが、たった2人で報復が成功するのは、流石に不自然で脚色だろう。

基本的に勧善懲悪の物語に帰結し、それほど政治的メッセージが感じられないのが残念。
史実は皆の知るところであるが、アメリカのイラク侵攻に反戦メッセージを込め、軍の前でウダイが壮絶な死を遂げて欲しかったところ。

独裁者サダム・フセインの息子であるウダイの人格を完全否定することで、民主主義の良さを訴える、ある意味でプロバガンダな映画となっている。
また、2人の父親を通して、躾と愛情という教育の重要性を感じさせる作品になっているのは好印象である。
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