てる

デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-のてるのレビュー・感想・評価

3.5
すんごい話しだった。
自由に振りかざせる権力と莫大な財力があれば、人はこうも野蛮な生き物に成り果てるのだろうか。
独裁者の息子ということで、彼は全ての行いに免罪符を持っている。彼に物言える人物は存在しない。敢えて言うなら、父のサダム・フセインのみ。その父に悪事がバレないように注意しておけばいいのだ。
彼の行いは悪魔的だ。
人の意見は意に介さず、自分の我が儘を究極に貫き通し、気に入らないものは金と権力で捻り潰す。
相手を意のままに操るのはさぞ楽しいことだろう。だが、それは刹那的な愉悦でしかない。
その後の周りの人間は決して思惑通りの反応を示さないだろう。同じような酷いことをされるかもしれないという恐怖で敬遠したくなるはずだ。
常に報復されるやも知れない恐怖があるため周囲を護衛で堅め、さらに、その護衛や取り巻きが離れていかないために、さらに、恐怖政治を敷く。
本音を漏らせる友人や家族は居らず、周りには恐怖でひきつった笑顔の取り巻きばかり。
彼を更正させるのは不可能だ。環境がそうさせない。彼を罰する方法がない以上、どうしようもない。
人を襲う獣は害獣として駆除されてしまう。害獣認定された獣をわざわざ保護する人間はいないのだ。
彼もまたそうだ。唯一、大切にしているラティフに見放された彼は本当に見境がない。
同級生で影武者のラティフは唯一替えが効かない存在だ。それをウダイは理解している。
だが、大切にしようにも、人の大切に仕方がわからない。だから、家族を人質に友人関係を引き留めようとしたが、それでも従わない彼をどうしていいのかわからない。結局、いつもと同じ短絡的な行動に走ってしまう。
ウダイはサダム・フセインという独裁者がイラクという発展途上国という土壌で作り上げてしまった化物だ。
彼のような化物が、万が一にも国のトップに立ってしまったならば、多くの血が流れていたことだろう。彼のような傍若無人の化物が今後出現しないことを願う。

それにしても、ドミニク・クーパーの演技は素晴らしかった。
ラティフの演技だけでも凄い。誠実なラティフがウダイの影武者になろうとウダイの言葉を真似ているシーンがあるが、ラティフがウダイの狂気に感化されていると思った。だが、そういえば、元々同じ役者なわけだし、そう思うのは少々おかしいと我に返ったが、そう思えるように2つの役を上手く演じ分けているからなのだと実感した。
誠実なラティフと狂気のウダイ。演じ分けるのはさぞ難しいことだろうが、なんの違和感もなかった。
彼の演技を観るだけでもこの作品を観る価値があると思わされたのでした。
てる

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