てる

ウエスト・サイド物語のてるのレビュー・感想・評価

ウエスト・サイド物語(1961年製作の映画)
3.9

『ロミオとジュリエット』を元にした話しだったのね。まるで知らなかった。アメリカ版『ロミオとジュリエット』といったところか。

名作だった。面白かった。
ミュージカルをそのまま映画にしたような作品だった。それがまた良かった。気取った感じもなかったし、素直な作品だったのが好感を持てた。

ミュージカル映画って苦手だった。だって、何の前触れもなく、突然歌い出すのだ。明るい話題で歌い出すならともかく、シリアスなシーンでも歌い出すのが違和感でしかなかった。真面目にそう思ってるのか!? って言いたくなる。
舞台でもないのに、映画という媒体なのに、突然歌い出すなんて非日常的過ぎると思っていたのだ。
しかし、大人になり、一歩引いた眼で作品が観れるようになった。ミュージカルというものに理解を示すことができてきたのだ。
今は、プロのダンサーのダンスや歌も聞けてお得! くらいの気持ちで観ている。ミュージカルはお話を観るというよりも歌やダンスを楽しむものなんだという、ミュージカルならではの楽しみ方を心得ている。

今回の作品は『ロミオとジュリエット』を基にしているだけあって、情熱的であり、冷酷な話しだった。
大人になってみると、強いだの弱いだのはどうでもよくなる。縄張りだのメンツだのと宣っているけども、ギャングでもマフィアでもあるまいし、オママゴトでしかないのに命を張るだのなんだのアホらしい。従って、彼らが対立している理由も正直どうでもいい。
だけど、彼らの境遇には同情はできる。
複雑な家庭の事情を抱えている少年たち。移民して差別を受けている少年たち。
どちらもやさぐれてしまうのはよくわかる。仲間と一緒にいるところだけが、唯一心が安らぐ場所なのだ。
だからこそ自分の居場所を守るために対立してしまう。
でもさ、武器を使って殺し合うってのはやり過ぎだ。
しかも、一番冷静で大人だと思っていたトニーが加害者になってしまう。

なんというか、トニーだけをピックアップして観ると一番クレイジーなのは彼であり、彼が出てこなかったらここまで話がややこしくなることもなかったのではないかと思ってしまう。チームを抜けている第3者のトニーが相手のチームリーダーの妹と恋に落ちる。そして、2チームの抗争を止めようとする。そこまではいい。
そこからが問題だ。弟分を刺され、カッとなった彼は相手チームのリーダーを刺し殺してしまう。いやいくらなんでも衝動的すぎやしないか? 武器を使わず、拳一つでとか言ってたあとに、抗争自体を止めようとしていた当の本人が、ナイフで相手を刺し殺すってさ、そりょないよね。
しかも、その後その妹と駆け落ちしようとする。その手でよくその女を抱けたもんだ。
彼の行動は極端に冷静を欠いていた。自分の罪を逃れることと、その女との生活しか考えていない。でも、それは彼女の心にまで思考が行き届いていない。自分の兄を刺し殺した男と生きていくなんてのは到底かなわない。
トニーは彼を刺した時点で、マリアと永遠の別れを誓い、警察に自首しにいくべきなんだよなぁ。
とはいえ、そんなことを言っては物語が盛り上がらないのもわかってはいる。

それにしても、随分感情的で衝動的で情熱的だなぁと思う。
抗争の中で生まれる恋。なんて素敵なのだろうと思う。情熱的だと思う。私ならば、その恋を成就させようとはしないだろう。でも彼らは成就させようと、抗争を止めようとした。そのまま止まっていたならどんなによかったことか。

しかし、彼らの行動は何かにつけて、後先考えず、感情的で衝動的すぎる。だからこそ熱い物語が生まれるのだけど、大人であり、現代人の私としては、もう少し冷静になったら? と思ってしまう。
トニーが初めからヤバい人であったのなら、納得できたのに、当初はそうでなかった。唯一大人な人物であった。その彼が加害者になってしまうというのがどうにも腑に落ちない。仮に、止めに入った彼が刺されてしまったというのならわかるのだけど。

バーのマスターが抗争を続けようとする彼らを叱りつける。正にその通りで、この作品で唯一、筋が通った言葉であった。なぜ傷つけあうことを止められないのか。彼らがそれを学ぶには人が死ななければならない。血で血を洗い続けて、もう止めようと渦中の誰かが言わなければならないのだ。
なんて虚しくて、愚かで、悲しい話しなのだろうか。
やはり教育なんだろうなぁ。
てる

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