てる

オッペンハイマーのてるのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0

キリアン・マーフィーようやくノーランの作品で主演になれて良かった。しかも、色々受賞したし、言うことなし。

オッペンハイマーという人物を知らなかった。前情報で原爆を作った人物というのは知ったが、それ以外全く知らない状況で映画館に行ってしまった。
もう少し第二次世界大戦のアメリカの事情を知っていれば、より楽しめたことだろう。
ノーラン作品ってそういうとこあるよね。

原爆という大量殺戮兵器を作りだしてしまった男の成功と苦悩を描いた作品。
人間性は決して褒められたものではないが、理論物理学では天才と言わしめる人物。少なくとも女性関係ではクズだ。恋人がいるにも関わらず、夫のいる女性を孕ませて略奪婚。その後も不倫関係は続けている。さらに、公の場で偉い人を馬鹿にするような発言をし、復讐される。どれもこれも身から出た錆なのだ。
しかし、学者としてだけではなく、政治的にも有能であった。ロスアラモス国立研究所の所長を務め、彼をリーダーにマンハッタン計画で見事に原子力爆弾を作り上げた。だが、その爆弾をどのように使うかまでは彼の采配の下にはなく、かくして、日本に2発もの原爆を落とすのに到った。
オッペンハイマーの苦悩は計り知れない。どんなに女にだらしなく、どんなに傲慢で嫌味な人物だろうと、14万人もの人間を死に到らしめた兵器を作り上げたことを声高に誇れることはなかった。

凄まじい予算をかけ、2年もの月日をかけた研究の成果を喜ぶ気持ちはわかる。私も不覚にも気持ちが高ぶっているのを感じた。
彼らはあの瞬間に間違いなく世紀の大発明をなし得た。人類の進化の1ページを切り開いたと言っても過言ではない。
だがそれは負の遺産なのだ。その兵器が人間に使われることを考えてはいなかったのではないか。オッペンハイマーの壇上での強気な発言に歓喜していたが、今後、原爆が世界情勢に及ぼす影響に思考を巡らせていた者はいなかったのではないか。科学者という隠れ蓑で他人事のように責任を逃れているが、彼らに責任がないとは言いきれないのではないか。
私としてはもっと罪の意識を感じてほしい。アメリカの大地にいた国民にはさほど原爆投下の報道はされていなかったのかもしれないが、どれほどの重い罪を犯したのか感じてほしい。

私はてっきりそういう話かと思っていた。オッペンハイマーという人物が罪の意識で苦悩し続ける話かと思っていたが、そうではなかった。オッペンハイマーという人物の伝記でしかなくて、反戦映画ではなかった。原爆の父として、アメリカで英雄になった男の栄光と悲劇の話し。原爆という世紀の大発明をなし得た男に降りかかる栄誉の声とそれを妬み、裁判沙汰にまでなった彼の悲劇。
私としては物足りない。もっと嘆き悲しんでほしかった。あれほどまで、衝撃を受けたオッペンハイマーでさえも原爆での死者は過去であって、それよりも今の裁判というか尋問に堪えている。
それが彼の悲劇なのか。そんなことでいいのかと思わざるを得なかった。ノーランも所詮はアメリカ人でしかないということなのかと思わざる得なかった。


視覚効果は凄まじかった。どのカットにも洗練された想いを感じる。
爆発、星の映像など、描写が凝っていた。
一番印象に残っているのは、オッペンハイマーが壇上で講演しているシーンだ。語っているのとは裏腹に罪の意識で押し潰されそうなっているあの描写は凄かった。

今回、IMAXで観賞したが、やはりノーランはIMAXのエキスパートだ。IMAXの見せ方を熟知している。
大きなスクリーンに12chサウンドシステムの音響。特に強く印象的に感じたのは音響だ。
爆発の音はド迫力で、恐怖すら感じた。まるで、絶叫マシーンのような恐怖心だった。
ノーランの作品は重低音がいつもカッコいい。今回ももちろん、ノーラン節が効いたBGMであったが、全方向にあるスピーカーをこれまで使っての作品は初めてだった。
今まで、IMAXはただスクリーンがデカイだけだと思っていたが、そうではなかった。音響の面でも優れているのだと気づかされた。
今後もIMAX作品に注目したい。
てる

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