不在

ラルジャンの不在のレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
4.8
今の社会に抗う事も、共産的な考え方に身を投じる事もできない。
主人公の目にはどちらも欺瞞に映る。
彼は良くも悪くも愚者であり、安定や現状維持の奴隷にならざるを得ない。
しかし彼のあずかり知らない所で、世界は常に動き続けている。
そしてそれは往々にして、弱者にとっての悪夢となるのだ。

資本主義における金銭と犯罪の構図はよく似ている。
どちらも拡散し、増殖する。
富者はより富み、貧者はより貧する。
得る者はより多くを得て、失う者はより多くを失う。
金持ちが紙幣を積み重ねるように、イヴォンは罪を重ねる。
確かな思想もないまま、ただ落ちていくのだ。

イヴォンを救うものは何もない。
社会も民衆も、神すらも彼を見捨てた。
だからこそ彼は何にも頼らず、自分なりの救いを自らの手で実現する。
無情にも、そんな彼の姿は大衆の目には映らない。
全てを失った者は、社会から抹消されるのだ。
しかし目には映らなくとも、人々は感じ取る。
一人の人間が確かにそこにいた気配。
一つの小さな蝋燭が燃え尽きた後の、煙の匂いを。
不在

不在