月うさぎ

戦場のメリークリスマスの月うさぎのレビュー・感想・評価

戦場のメリークリスマス(1983年製作の映画)
4.5
Merry Christmas Mr.Lawrence!
名画です。
年を経ても新しい気づきだったり、同じ感動を与えてくれたり、美しさや人生の深みを見せてくれる。そんな映画は名画として残っていくのです。きっと、ずっと。
David Bowie主演(といって良いでしょう)観たさでしか無かった最初の鑑賞時。
大きな衝撃でした。
そして今観ても。やはり衝撃的映画です。

1.David Bowieを正しく使った初めての、そして唯一の映画
彼がジャック・セリアズを演じた事により、人物にミステリアスな神性を与える事ができた。
大島渚はボウイのエレファント・マンの舞台を観て惚れ込んだそうだ。
劇中でボウイのパントマイムも披露される
狂気を感じさせる表現。
美しい後ろ姿。
ちゃんとボウイの良さを引き出せている。
本当に素晴らしい。
大島渚ってそれまで大きな態度で和服と扇子で目立とうとしている変態なおじさんと思っていたので、本当にビックリした。
ボウイに音痴の設定もウケる。🤣

2.キャストにミュージシャンを多用。
坂本龍一、内田裕也、ジョニー大倉。
それとお笑いのビートたけし。ときた。
ヨノイ大尉は最初、沢田研二とかも候補にしていたみたいだが、結果、ボウイと対照するなら教授は正解。
今観ると若くて可愛く見えちゃう。こっちも歳とったというだけだけど、別人みたい。
ストイックで本当に2.26事件を起こしそうに見える。
YMOやってるイメージと全然違う。すごい。

Merry Christmas Mr.Lawrence
坂本龍一の代表曲だが、演技も映画音楽も初めてだったそう
これがまた良い曲ですよね♪

3.戦争を描いているけれどプロパガンダは一切ない。
これまで散々見せられていた戦争ドラマは日本人が「被害者」なものばかり。
軍隊が日本兵にやった暴力行為や空襲を受ける民間人や離れ離れになる家族や特攻のような無駄死に作戦や残留孤児やシベリアの強制労働ね。
でもこの映画は違う。

Nobody's right
正しい人なんていないのだ

集団発狂による暴力ほど酷いものはない
戦争はまさしく集団発狂

民族、言葉、宗教、価値観、性別
それら全ての垣根をなくし人を愛することはできるのだろうか?

究極の愛とは、赦しである。
セリアズはヨノイを赦す
自己を殺して生きるヨノイに自分を見出したから。
   
プロパガンダはないけど、めっちゃ深いじゃないですか!

最近、また、戦争映画に「日本人可哀想」メッセージが目立っていてとても危険に思っている。シベリア捕虜は民間人じゃなくて兵士だし、この映画でも日本人が俘虜に対してやってる事はシベリアと一緒だし、戦争は悲惨だねという単純な描き方はすべきでない。戦争をどうしたら回避できるのか、起こってしまった戦いの中で人間はどう振舞うべきなのか?そもそも戦争とは何なのか?そこを問わないでお涙頂戴は汚い。

さて、そこでビートたけしですよ!

4.たけしに泣かされてしまう
彼のこと好きではなかったんですよ。
でも、鬼軍曹のハラが変わるところがすごい。少年のような表情が、あの人にできるなんて!


5.戦争の罪は、敵国の人を殺す事以上に、個人を生きながら殺す事にある。
ハラ軍曹は言う。
死ぬ覚悟はできている(軍隊に志願した時からきっと)
しかし自分が裁かれる罪(戦犯)の意味がわからない。
兵士として他の兵士と同じ事をやっていただけだ。(なのになぜ他の人は許され自分は死刑なのか?)
そう。軍隊という集団の中で個である事を放棄するということは、そういう事だ。
   
しかしハラはローレンスと出会い、接する中で個を取り戻したかにみえたのだが…
俘虜の強制労働現場で鬼軍曹に戻ったのか

本当に戦争の罪を見つめて、人間を見つめている作品だと思います。


ただ、満点にできないのは暴力的シーンが嫌いな方には勧められないかもしれない。

映画の感動のために原作小説から改変した部分が、セリフとテーマに齟齬を生んでいる点
ここも残念でした。
種を蒔いたんだから、育てる人がいなくてどうする?!
そう思いませんか?

でも、ラスト良ければ全て良し👌

あまりにエンディングがいいから、それでもいいか。(*^^*)
月うさぎ

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