キンスキーは本当にイカれてる。だから彼にしかない強烈な個性を放っていて、魅力的で、嘘がない。
そんな男に惹かれ、5本の作品を撮ったヘルツォーク監督が、キンスキーへの愛憎を語るドキュメンタリー。キンスキー没後8年の作品。
監督のことも狂人だと思ってたけど、物静かな人だった。先住民たちは怒鳴りまくるキンスキーより、静かな監督の方を怖がったというのがわかる気もする。
作品それぞれのエピソードが面白い。そもそも映画自体があり得ない設定やロケ地だから、裏話もあり得ないことばかり。修羅場をくぐってきたからこそ生まれた作品なのがよくわかる。
現地の人が監督のために「あの人、殺しましょうか」と言ったのは驚きを越して笑えてしまった。
過酷すぎて降板したミック・ジャガーの幻のシーンが観れたのは貴重。
キンスキーは自分が中心にいないと些細なことでキレ出す。エゴの塊。病的なまでの自己偏愛。でも女優には優しく接していたのが印象的。本当は気が小さくて繊細な人なのかもしれない。
散々怒鳴り散らした後に本物の演技が見れることもあると言うから、監督も彼を上手に操縦してあの演技を引き出していた。まるで猛獣使いだ。
愚痴を言いつつも、彼が恋しくて、寂しくて仕方ないのが伝わったラスト。
蝶々と戯れる彼を見てたら、こっちまで寂しくなってしまった。
「時折、彼を抱きしめたいと思う」
「私は彼を記憶に刻んでおきたいのだと」
愛に満ちたドキュメンタリーでした。