ちろる

秋刀魚の味のちろるのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.1
図らずとも小津安二郎監督の遺作ともなった本作。
年頃の娘を持つ初老の先行きを案ずる孤独がラストに向けてしみじみと広がり、観ている最中ではなく終わった後に後追いで心に染みてくるような味わい深い作品。
ともかくこの作品が作られた時代背景を見るのは非常に興味深い。
戦争は終わり、日本は高度成長期に入った後の昭和30年代半ばに東京の街中には英語の看板が溢れ、人々の生活も欧米化していくけれど飲み屋では男たちが今だに日本は何故負けたのかといったような敗戦の恨みがの言葉が溢れる。

経済成長して社会は変化しても女性は常に男性のサポート役であるという位置付けは変わらない昔ながらの日本の家庭の姿とは対照的に、新婚である長男幸一は、妻の尻に完全に敷かれっぱなしだという家庭環境の近代化も並行して見せていて面白い。

主人公の娘路子も働きながらもヤモメの父と末っ子の世話を全て引き受けることに不満も持たず、恋や縁談を後回しにしているというのはひとえに男どもの勝手さゆえのもの。
しかし、母親不在の男家族だけの長女に対する無神経さの描き方が絶妙だ。

娘はまだ良いように使いたい。
かわいい娘を手放したくない。
ヤモメの父ならば口に出さずとも誰もが思う身勝手な思いを改心させるかつての恩師ひょうたんの婚期を逃した娘、杉村春子の切ない演技もぞわぞわさせてくれました。

それにしても何もできない男を女がなにもかも世話をするこの昭和の日本の古き姿も悪くないものです。
フェミニストの方たちには叱られそうですが、この作品の家族のようにお互いに敬意を払いながら女性が男性をサポートしていく日本の文化もある意味清き姿に見えてしまいました。

ちなみに路子を演じた若き日の岩下志麻がお美しい。岸田今日子もキュートな笑顔が印象的で、昔の銀幕の女優さんってみんな綺麗だなぁとうっとりできました。
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