針

ソイレント・グリーンの針のレビュー・感想・評価

ソイレント・グリーン(1973年製作の映画)
3.8
近未来SFのちょっと有名なやつ。
2022年(!)のアメリカは人口爆発によって至るところに人がおり、しかし食料は足りないので合成食料みたいな味気ないものを食べて生活しています。そんななかチャールトン・ヘストン演じるソーン刑事(にしては格好が普通の労働者みたいだけど)は、重要人物の暗殺事件をきっかけに社会の暗部に切り込んでいく……。

冒頭の(たぶん)アメリカの歴史を写真のダイジェストで描いていくところからけっこう引き込まれました。産業の発展にともなって人間も際限なく増え続けて取り返しのつかないところまで行っちまったよ~という感じ。

ストーリーは陰謀を探るハードボイルドチックなものなんだけどそこまで密ではないかなぁ。ヒロインとの絡みもまぁまぁという感じ。根幹のアイデアも当時はともかく今では立派な古典だなーという感じは正直します。

でもこの近未来ディストピアものの一番の見どころは、現実の延長線上でどうにもならなくなった社会をどういうビジョンと道具立てで描いていくかっつうそこのアイデアの部分にあると思う。のちの『未来世紀ブラジル』とかと同系統で、未来社会の糞詰まり感を非常にふざけたギャグで表現しているのが大変自分好みでした。
・この世界の警察は一種の治外法権(使い方違うか)で、主人公は調査のかたわら被害者宅の高級品を洗いざらいかっぱらって来て、自分の家で使ったり食べ物は食っちゃったりしてます。職権乱用が過ぎる! 容疑者にはふつうに暴力も振るうしでもうヒドいんだけど、ここが一番楽しいところ。アノミー都市!
・みんな屋根のあるところで寝たいけど部屋がないのでアパートの階段には隙間なく人が寝ていて足の踏み場もない(んなわけあるか)。
・暴動鎮圧のシーンのショベルカーが野蛮すぎる。ムスカじゃないけど「まるで人がゴミのようだ!」という感じの非人間的な扱いっぷり。
・この世界では若くて美しい女性はあわよくば特権階級たる富豪に取り入り、身のまわりの家事と性を提供することと引き替えに住居や食料といった「高級品」を享受するという社会ルールがあるっぽいんだけど、その女性の呼び名が”家具”というのは身も蓋もなさすぎてちょっとね……まぁでもこれは正直、未来社会に限った話じゃなくて現代社会の一面を反映した手酷いギャグではありますね……。
 ――総じて何の夢も希望もない、カッスカスの未来描写が、一周まわってギャグとしての魅力をたたえていてよかったです。いま見るとちょっとチープに見えてしまうセットの感じも逆に良い方向に働いてると言えなくもないのかなと。

あとは作中である人物が見る「希望のビジョン」のなんとも言えないかなしさね……。

序盤で主人公と相方がかっぱらって来た食品をふたりで食うシーンがあるのですが、食べてるもの自体はそんなでもないんだけど食ってるふたりの仕草が滅茶苦茶美味しそうでよかったです🥩 自分はチャールトン・ヘストンとかアーネスト・ボーグナインとかジャック・ニコルソンとか、この手の煮ても焼いても食えない海千山千感のあるおじさん俳優は好きだなーと思いました。
針