filmoo

麦秋のfilmooのネタバレレビュー・内容・結末

麦秋(1951年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

小津安二郎10本目。
「晩春II」みたいな作品だった。『晩春』よりも家族の規模を大きくしたので描かなくてはならないことが増えて散らかった印象でゆったりとした気持ち良さは失われているけど、要所要所にコミカルなシーンが差し込まれ緩急がつけられており2時間の長さは感じなかった。
今回も原節子の圧倒的な存在感に惹きつけられた。
原節子と三宅邦子の絡むシーンは大体良かった。三宅邦子の少しだけ影のある美しさは不倫が似合いそうだと思ってしまった。
原節子と淡島千景の絡むシーンもほとんどコメディパートで楽しかった。
佐野周二と淡島千景のやりとりも面白かった。ハマグリ後の海苔巻きで下ネタを察し回避したつもりの淡島千景を事前に提示しておいた変態の罠に引っ掛ける手口が見事だった。
小津にしては珍しく動きのあるカットがいくつか出てきた。以前に観た作品で憶えているのは『戸田家の兄妹』終盤に兄が家から逃げ出すシーンだけ。普段動かないカメラが急に動き出すと何故かホラーっぽさを感じてしまう。
前半、淡島千景の実家の料亭で上司の佐野周二に縁談を持ちかけられた後、料亭の廊下を前方にカメラをスライドさせる映像があり、後半、断った縁談相手の顔を直接拝みに行こうとする原節子と淡島千景が部屋へ向かうシーンを前半とはぴったり逆方向へのスライド映像にしていた。BGMもアレンジは違うけど同じ曲が流れた。
この2つのシーンには何か意味がありそうで調べればネットなり書籍なりで解説している人も居そうだけど勝手に解釈すると、前半は原節子にとって自分の世界が変わり始めようとしているのだけど現実味が無いというかあまりしっくりこないような心情が前方向へのスライドに込められていて、後半の縁談を断り淡島千景とこそこそ冷やかしにやってきた時の後方へのスライドで元のあるべき自分の世界に収まるような感覚を表現しているのかなと思った。
filmoo

filmoo