櫻イミト

さすらいの二人の櫻イミトのレビュー・感想・評価

さすらいの二人(1974年製作の映画)
4.5
放浪三部作と呼ばれる「欲望」(1966)「砂丘」(1970)に続く三作目。アントニオーニ監督全盛期の最後の作品。伊題は「 Professione: reporter, (職業 : 記者)」。英題は「THE PASSENGER(同乗者)」。

行き詰まりを感じている有名な映像レポーター(ジャック・ニコルソン)が取材先のホテルで隣室の男の死に遭遇し、その男に成り代わることを思いつく。早速実行に移すが死んだ男は武器密輸業の男で、自分の身にも危険を感じ始める。一方、彼の死に疑問を持つ妻は行方を追い始めていた。そんな中、ふとしたことから建築を学ぶ女子大生(マリア・シュナイダー)と出会い一緒に放浪を始めるのだが。。。

全盛期のアントニオーニ作品は全部好みだ。中でも本作は映像・演出共に完成度が頂点に達している。アフリカ、ロンドン、ミュンヘン、バルセロナ(ガウディ建築カサ・ミラ)、オスーナと、選ばれたロケーションの中で男の空虚感が切り取られる。理性的なニコルソンと感性的なシュナイダーのキャスティングも両者の魅力を引き立てあい絶妙。そして、映画史に残るラスト前カット7分間長回しは、映像の意味と撮影技量のレベルの高さに感嘆した(このワンカットの撮影に11日間かかったとのこと)。人間の存在認識を主観から客観へと同時間で示す物凄い表現だと思う。

女子大生の驚愕の正体について。多くの人が気付いていないようなのでコメント欄に記しておく。これがわからないと本作をまるで理解できないだろう。

※キャスティング後に、マリア・シュナイダーが車の運転をできないことがわかりシナリオが変更された。シュナイダーが後部座席で風を浴びながら走るビューティーショットは怪我の功名である。
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