江戸時代の小石川養生所を舞台に、ベテラン医師と若い医師による患者との交流を描いたヒューマンドラマ。
原作は山本周五郎の小説”赤ひげ診療譚”。
黒澤明が監督を務め、三船敏郎と加山雄三がW主演、山崎努、団令子、桑野みゆき、香川京子らが共演。
若き医師の保本登(加山雄三)は長崎でのオランダ医学の留学を終えて、幕府の御目見医師になるつもりで江戸へ戻って来た。保本登は父親の言い付けで、徳川幕府が設立した小石川養生所の医師”赤ひげ”(三船敏郎)に挨拶しに行く。そこは貧しい通い患者たちが発する果物の腐ったような匂いが立ち込めており、いきなり住み込みで働かさせられることになる。町奉行からも辞令が出ていることを告げられ逃げ出すこともできず、しぶしぶ養生所に留まるが…
「まずい食べ物でもよく噛んでおれば味が出る この仕事も打ち込んでみれば捨てたものではない」
御目見医師になるつもりで長崎の留学から帰京するや否や、ベテラン医師の赤ひげから突然町の診療所で見習い医師として働くことを言い渡される。
そんな若き医師がベテラン医師のもとで不本意ながら働き始める。
「医術などと言っても情けないものだ 医者にはその症状と経過は分かるし 生命力の強い個体には多少の助力することはできる だが それだけのことだ 現在われわれにできることは貧困と無知に対する戦いだ それによって医術の不足を補うほかない」
まさに医療の核心を突いた名言で、現在でも医療従事者ほど心に刺さることだろう。
食生活の重要性や心の病が語られるなど、現代医療においても当てはまることがたくさん描かれている。
「人間の一生で臨終ほど荘厳なものは無い それをよく見ておけ」
医療現場は患者の人生と社会の縮図で溢れており、患者一人一人の珠玉のヒューマンドラマに涙が絶えない。
三時間以上の長尺だが、黒澤明監督の圧倒的な演出とストーリーに引き込まれて時間を全く感じさせない。
三船敏郎ならではの貫禄のアクションに加え、優しさと威厳の滲み出た人間味あふれる演技を満喫できる。
一方で加山雄三の演じる若き医師の成長も見どころで、患者を診療するはずが、気付けば患者に看病されることになるなど重厚なストーリーが展開する。
最後は研鑽を積んだ若き医師が、念願の御目見医師になれることを伝えられ、祝言の内祝の盃を交わしてホッコリです。
「お許しが出たのですね」
「もう一度言う お前は後悔するぞ」
「試してみましょう ありがとうございました」
「ふん!」
心も晴れやかなハッピーエンドが心地よい。
2025.3 NHK BSで鑑賞(プレミアムシネマ)
第39回キネマ旬報ベスト・テンで第1位
第26回ヴェネツィア国際映画祭で男優賞(三船敏郎)、サン・ジョルジョ賞を受賞