三樹夫

白い巨塔の三樹夫のレビュー・感想・評価

白い巨塔(1966年製作の映画)
4.0
大阪の医大を舞台に展開される政治劇。劇中では教授選挙と誤診裁判が描かれる。脚本はししのためか監督が山本薩夫のためかあるいはその両方のためか、反権的な要素が強くなっておりド陰惨な終わり方をするし、財前も何の共感もないようなただの悪い奴として描かれる。
私は田宮版のドラマは全話観て、唐沢版ドラマは3話ぐらいまで観た。田宮版のドラマは最高に面白くて金子信雄、小松方正、戸浦六宏と悪い顔したオヤジが料亭に集まって悪だくみしてて最高だったし、中でも曽我廼家明蝶が本当に良かった。しかしセットがいかにもセット然していたのと、独り言での説明台詞がノイズだった。東娘の「私は里見先生が好きなんだわ」なんて台詞があるがそんなのわざわざ台詞にしなくても観てりゃ分かるし。唐沢版ドラマは田宮版ドラマのようにいかにもセット然としたところはなかったけど、演出も演技も田宮版ドラマを大きく下回るものだったので3話ぐらいで観るの止めた。

東教授が退官するということで次期教授選が行われる。東教授は財前のことが嫌いなので外部から候補者を立てる。財前一派は岩田はんを会長とする関西医師会が後援となって、又一パパの財力を戦略の主軸として実弾をばら撒き鵜飼のおっさんも抱き込んで選挙に挑む。第三勢力として民主的とか言ってるけど結局はパワーバランスが他の所に傾くのが嫌なだけの加藤武グループもいるという三つ巴の選挙になる。
地位と名声にとりつかれた悪いおっさんがひたすら悪だくみをする選挙戦になっており、出てくる医者が里見と大河内以外はクズしかいないという暗黒世界になっている。おっさんたちが求めているのは金ではなく地位と名声というのがポイントで、金が第一でないことは大量に金を持っている又一パパがいることから分かる。大名行列みたいな所に何の違和感もなく入れてなかおかつ大名みたいな振る舞いが出来るというのは、私は明確に拒否感を覚えるが、そうやって権力や権威にとりつかれ、またそういうったことに居心地のよさを覚えるような人間は珍しいことではないのだろう。権力や権威にとりつかれると人間としてダメになる。
魑魅魍魎的な醜怪な権力争いが描かれるのだが、悪いおっさんたちが悪だくみをしているのが面白いというのが困ったところ。役者も小沢栄太郎など悪そうなオヤジを取り揃えている。ちなみに小沢栄太郎、加藤嘉は田宮版ドラマでも同じ役で続投している。悪いおっさんの中でも又一パパが超絶下品の絵に描いたようなガハハオヤジというとんでもなく面白いオヤジで、悪オヤジ世界の中の萌えキャラになっている。東はウザいオヤジで、会社に一人ぐらいはああいうオヤジがいそう。
田宮版ドラマでの財前は悪オヤジ一派の中にいながらもどこか馴染めていなさそうで、悪に染まり切れない男として描かれていた。またマザコンであり、愛人が母親の代替となっていた。演じていたのが太地喜和子でこれ以上ないぐらいの愛人感とマザコンの受け皿感が漂っていた。しかしこの映画では財前と愛人に対する視線はかなりドライであり、シンプルに悪い奴という描き方がされている。

『白い巨塔』の後継者としては『振り返れば奴がいる』がある。『振り返れば奴がいる』はダーティーな医者の財前をイメージした織田裕二と実直誠実な医者の里見をイメージした石黒賢という、対照的な医者の対立を際立たせてドラマを展開している。最後に胃癌になるのも『白い巨塔』が元ネタだ。また織田裕二がピンと音のなるライターを持っているが、それはデュポンのライターであり、これも『白い巨塔』が元ネタになっている。
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