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早春のめるのネタバレレビュー・内容・結末

早春(1956年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

サラリーマン生活、幸せか?

私もふと考えることがある。
このまま毎日同じような生活をしておばさんになるまで働き続けるの?
平穏な日々が一番良いとはいえずっと続くのかと思うとわびしく感じる。そんなの絶対に嫌だな。いつか環境を変えたい。どうにかしたいって思ってる。
でも、何かと理由を付けてしまって実行するのはなかなか難しいもの。


小津安二郎監督作品では珍しく不倫を扱ったドロドロの映画でした。

昌子さんがかわいそう!!
台詞がない場面の表情。いろいろな思いが渦巻いてぐちゃぐちゃになっているに違いないのに妙に静かに落ち着いてしまう感じ。
お家を出ていったのは当然。でも、それはあくまで冷静になって考えるためであって、やっぱり周りの人が言うとおり戻って話し合うべきだと思う。この夫婦には諭してくれる人がいて良かった。
今は一人で生きやすい時代になったぶん「そんなの即離婚だ!」と考える人も多いはず。もし自分が奥さんの立場だったら戻れる自信があるわけじゃない。でも、この年齢まで一緒に生きてきたのだから、感情的になったまま別れるのはあまりにも虚しすぎるのではないだろうか。

正二さんが三浦さんやもうすぐ子どもが産まれる同僚の人と話したことで、客観的に自分を見つめ直すことができたのは良かった。
いつの時代も東京に憧れる人がいる。大都会でスーツを着て働くことが本当の幸せかどうかは人それぞれだし本人にしか分からないよね。
子どもの命日への関心が薄れていた正二さんが同僚と話したことによってあの頃を思い出したのだろう。

それにしても岸惠子さんが演じるきんぎょの恐ろしさよ。これが魔性の女か……
奥さんがいる男性を誘惑して堂々とやってのけて、挙げ句の果てに奥さんにも会って悪びれる様子もなく。
同僚の男性陣がぴしゃりと言ってのけた場面は良かったなぁ。その後本音がだだ漏れだったけど!
最後の握手は全てを水に流す握手。きんぎょが奥さんに謝りに行って事が大きくならなくて良かったー…


汽車の汽笛。
ふたりで汽車を眺める様子が新たな生活の始まりを予感させている。
こういう見せ方がさすがだなぁ。

春が訪れますように。


P.S.
杉村春子の実家のような安心感。こういうおばさんご近所にいてほしい(笑)
笠智衆と東野英治郎もちょい役でありながら存在感があって贅沢でした。

無印良品で小津安二郎のエッセイに出会いました。とても読みやすくて面白かったので、ファンの方にぜひおすすめです!
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