かなり悪いオヤジ

マディソン郡の橋のかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

マディソン郡の橋(1995年製作の映画)
3.5
メリル・ストリープの演技力だけで辛うじて映画足り得ている本作は、冷静に考えれば、どこの馬の骨だかわからない世捨人カメラマンと欲求不満の人妻が、家族のいない隙にどろどろの不倫沼にはまりこむしょうもないメロドラマである。アメリカでは原作小説もベストセラーになったとかで、この頃のアメリカ人妻がいかに夫とのSEXに不満足であったかがうかがい知れる内容だ。

しかし、本作が見た目不潔な不倫ドラマに見えないよう、原作者は2つの大きな目眩ましを仕掛けている。一つ目は、不倫した母親の死後遺された日記帳を読んだ兄妹の目線で描かれている点である。愛する母さんに最も不倫をして欲しくない人物が、母親の不倫を許すという結末によって、観客のハードルを大幅に引き下げることに成功しているのだ。しかも、“4日間の愛の奇跡”を読んで、夫婦仲がうまくいっていない兄妹が真の愛に目覚めヨリを戻してしまうという、オマケつきだ。

旅のいく先々で女をつくり宿代を浮かせていたであろう“無宿男”ロバート(クリント・イーストウッド)を、2人の子どもを立派に育てた働き者でインテリのフランチェスカがなぜああも簡単に受け入れたのだろうか。農場の仕事と家事育児に追われ、教育者としての夢をあきらめた女性をその足枷から解放する役目をロバートに担わせている。それが2つ目のあざとい目眩ましなのである。つまり本作にはしれっと今流行りのフェミニズム演出が施されているのだ。

この女たらし写真家ロバートが屋根付きの古ぼけたローズマン・ブリッジを見て「Beautiful」と呟いた時、私は思わずブルっと寒気がしたのだが、みなさんはこのシーンをどうお感じになったのだろう。一説にはアイオワという保守的な田舎町で不倫関係を知られたくなかった2人の愛のメタファーということになってはいるが、私にはそうは思えない。ユング的に自由連想するならば、トンネル状になった古い橋は中年女性の“膣”を暗示していたのではないだろうか。それも原作者が無意識のうちに...

ロバート・ジェームズ・ウォラーとかいう原作者も私生活では、自分の農場で働いていたアルバイトと再婚した浮気経験者であり、それを(深層心理で)正当化するような物語を書いたところ大当たりしちゃった、そんなところではないだろうか。この映画に漂うなんとも気持ちの悪い雰囲気はおそらく、原作者の“年増好き”という性癖に端を発している気がするのである。イーストウッドも多分そこに気づいてカメラを回していたにちがいない。