垂直落下式サミング

フィールド・オブ・ドリームスの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

5.0
30代後半で農場を潰して野球場を作ったバカの夢を追ったファンタジーの感動作。アイオワのド田舎を舞台にした野球版牡丹燈籠であり、彼が作った球場には夢半ばでグランドを去っていったベースボーラーのサーヴァントが集結する。
世の中にあるのは成就した焦燥感と、成就しなかった焦燥感のみ。「動機」や「過程」など「結果」に比べればとるにたらないものだ。
夢に向かうには何かを捨てないと前に進めないし、一度失ったものは二度と手元には戻ってこないし、まかり間違えば取り返しのつかない不幸に陥ってしまう。だから大抵の人は闇雲に踏み出さず平穏に一生を終える。
その一歩は夢への足掛かりとなる前進か、一足先は暗闇に真っ逆さまの地獄行きか、何が飛び出すか踏み入れてみなければわからない。この映画は、この主人公のように熱意と使命感をともなった決断は必ずいい方向に進むのだと思わせてくれる。
奥さんがいい女だ。「あなたがやりたいと思うならやるべきよ」と男の衝動的なわがままに付き合ってくれたり、大勢の前で啖呵をきって堂々としている勝ち気な女なんてそうそういない。反政府運動によってこんな理知的な人間が育まれるのなら反社もすてたもんじゃない。学生が愛と平和を声高に叫び、ドラッグとセックスとロックンロールに溢れていた60年代のアメリカに強く憧れる自分がいる。