十一

赤毛のアン グリーンゲーブルズへの道の十一のレビュー・感想・評価

4.3
想像力が現実の前に無力さを見せる構図は、火垂るの墓と共通する。マシューは早々にアンの空想に魅了されるが、現実主義者のマリラは働き手である男の子が必要であるという現実を忘れることができない。彼女を変えたのは、アンの身上を聞き、彼女の気持ちを想像したことで芽生えた優しさであり、それが彼女が不要と切り捨てた、あるいは諦めてきた何かを目覚めさせるきっかけとなっている。空想は現実を変えることはできないが、人の心を変えることはできる。アンのお喋りが、マリラの何かを変化させたのだ。子供の頃はアンに感情移入して見る他なかったが、ついに自分の番が回ってきたのだと、決意を新たにするマリラを見ると、彼女がこの映画の主人公であったのかもしれないとも思う。アンとマシューとマリラ、三者三様に、持たぬもの、選ばれなかったものだが、彼らが手にするべきは、苦しみを従容と受け入れる現実主義でも、夢想により苦しみを忘却することでもなく、世界を認識する人間の根本を変革する想像力なのだと示される。
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