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ビフォア・サンライズ 恋人までの距離のEyesworthのレビュー・感想・評価

5.0
【人生という待ち時間を共に過ごす人】

リチャード・リンクレイター監督の「ビフォア・シリーズ」の一作目となるロマンス作品。

〈あらすじ〉
ユーロトレインの車内で偶然出会ったアメリカ人青年ジェシー(イーサン・ホーク)と、ソルボンヌ大学に通うセリーヌ(ジュリー・デルピー)は、ユーロートレインの車内で出会った瞬間から心が通い合うのを感じる。二人は意気投合して列車を途中下車し、ウィーンの街をあてどもなく歩く。しかし楽しい時間はあっという間に過ぎ、やがてお互いの生活に帰る朝がやってくる…。

〈所感〉
あまりにも評価が高すぎて、過度に期待して見てしまったが、そんな期待を軽々と超えてきた素敵な映画だった。とにかく終始会話の言葉選びがオシャレ。日本には、東男と京女なんて諺があるが、アメリカ男とフランス女の相性はめちゃくちゃ良いのかもしれない。ジョーク好きで明るく気さくな好青年ジェシーと知的でどこか陰のある美人セリーヌがウィーンの街をひらすら歩き、ひたすら他愛のないお喋りをするだけなのに飽きずに、堪らん!と見てしまう。よく初デートでディズニーはやめとけ、というのを聞くが、この二人くらい波長が合い、話のネタが尽きなければ、長い待ち時間さえも愛しく思えるのだろう。今日という日を誰と共に過ごすか?それは言うなれば、人生という長い待ち時間を誰と共に過ごすか?だ。彼らはお互いにこの恋愛劇を一日限りの思い出にしよう、と決めていたが、その決意が徐々に揺らいでいくのが若くて良い。同じ異国でのロマンスが題材の『ロスト・イン・トランスレーション』とはそこが違う。本来のワンナイトラブというものはこれくらい詩的でロマンチックな出来事でなければならない。二人の愛を阻むのはあまりにもかけ離れたディスタンスだけである。そのため、必要なのは次に会う約束だ。綺麗事だけでは上手くいかない真剣な恋愛の側面をよく描けている作品だと感心する。二人の距離が離れても、ウィーン・マジックは終わらない。そう確信させられる。いつまでもこの二人の会話を盗み聞きしていたい。個人的にウィーン風浮浪詩人くんが「ミルクセーキ」で詩を詠むシーンが好き。

この首筋に夢の跡〜🎵

「もし神が存在するなら人の心の中じゃない。人と人との間のわずかな空間にいる。」
ジェシー

「ワープロで時間が節約できたら余暇で禅を学ぼうなんて誰が言うもんか。」
セリーヌ
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