まさわ

泥の河のまさわのレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
4.5
宮本輝の原作は未読。これが監督デビュー作とはすごい。よい映画だった。
戦後11年、朝鮮戦争の特需を経て経済的には「もはや戦後ではない」とされてるが、大人の心にはまだ焼けつくような戦争の痛みが赤々としてる。
死んだ父親が酔うとよく歌っていた軍歌『戦友』を意味もわからず「ぜんぶ歌える」きっちゃん、その歌を聞いて心の傷が痛みだす信雄の父親…戦地から命からがら帰ってきても「カスみたいな人生」しか送れない。「こんなだったら戦争で死んだほうがなんぼかよかった」と嘆く。
『戦友』は軍歌のわりに勇ましさのない、物悲しい歌詞で、ググってみると日露戦争後に流行した歌で、太平洋戦争のころは表向き歌うことが禁じられていたとあった。だからこそ信雄やきっちゃんの父親たち兵隊には心にしみるものがあったのだろう。

親の職業によって子供たちのあいだにも引かれる見えない境界線にも心が痛む。
映画は1981年製作だが、当時の観客はわたしよりもずっと近くに、こういう戦争や貧困の痛みを共有してたんだろうな。
まさわ

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