昼行灯

泥の河の昼行灯のレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
4.0
あまりにすばらしくて…全てを理解することはできないけどなんとなくその重みをわかってしまう子供の悲哀。子供の俯きや涙を通して、大人も構造に由来する格差を実感して空元気になるしかない。そのやるせなさが澱んだ河の波模様に表れているような、、

わずかばかりしか出てないけどやっぱり加賀まりこの存在感はすごい。泥の河に浮かぶ花のような。思えば正面を向いた人間のフルショットは加賀まりこしかなかった気がする。でも化粧がいつもと違ってて最初加賀まりこに思えなかった、演技し出すとやっぱり加賀まりこだったが(頷き方とか)。子供に見られちゃったから住まいを変えるんだろうな…。夜子供たちは何をしてたんだろう。親の嬌声を子守唄に寝ていたわけではあるまいし。ぎん子ちゃんは大人っぽいから(というか大人っぽくならざるを得なかったから)、何年かしたら自分も客をとらなきゃいけないのかとか考えながら寝たんだろうな。

子どもの視線を通して戦後の格差を描いたのは確かにそうなんだけど、本当にそれが子供の視線だったのか?は疑問。加賀まりこのシーンにしろ本当に子供は加賀まりこの足を見ていたのかと思う。あと冒頭で死んだ馬引きのおじさんの耳のクローズアップとか、あたかも子供の視線であるかのように映し出すことで、子供が実際には注目していたかは分からない戦後の象徴的光景を強調していたようにも思える。子供からしたら戦後しか経験していないわけで、クローズアップで示された不自然な光景を普通だと考えることも出来ると思う。子供の視点という迂回路を経由することで現実をより劇的に提示しようとしていないか?とは思った。

あとこれもやっぱり子供の視点から廓舟を見るから廓舟だけが孤立してるように見えるけど、主人公少年の家庭もまあまあ孤立してる方だと思う。こんな泥くさい河辺に居を構えてる時点でまだ貧困から抜け出せてないのかなと。『河内カルメン』でもドブ川沿いの生活が描かれていたけどやっぱりド貧困だったし。子供はともかく、父母は廓舟を自らの境遇に重ねてみていたとは思う。主人公父も戦争がなかったらこんな商売やってないみたいなこと言ってたし。主人公母にしても、夫を前妻から奪ったという意味では戦争によって運命を悪い方向に変えられた人ではあるんだろう。

ほんと、お金をポケットから落とすとか蟹に火をつける遊びとか、笑顔になるとか全ての行為が貧困と因果づけられていて見ていて辛かった。きっちゃんの無理に笑顔になろうとするけど、筋肉の動かし方が不自然な感じとか泣きそうになった。スタンダードというのもなかなかよかったな。そのおかげか画面に縦長の構図がよく出てきて、かつディープフォーカスだから画面の奥に、つまりは支店の先の泥の河に浮かぶ舟の佇まいに吸い込まれるかのようだった。ラストの舟を追いかける少年のシーン、だいぶ時間が引き伸ばされてるのかな?少年の走るスピードと河の上をゆっくりと滑る舟の速さの対比が切なかった。きっと兄弟は舟から出ないように頑張ってたんだろうなあ
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