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泥の河のtakaoriのレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
4.0
2024年210本目

映像の質感は映画の舞台となる1950年代を思わせるが、1981年の映画である。原作小説も1978年であり、高度経済成長を経た日本が歴史上で最も豊かだった時代に、あえてこの物語が作られることにメッセージを感じる。劇中の新聞に「もはや戦後ではない」の文字が踊るが、子どもの目にもそれがまやかしであり、敗戦から10年経っても戦争の傷跡は各地に残っていたことが鮮やかに描かれる。タイトルにもなっている「泥の川」は、冒頭の馬車引きの事故死から始まって、繰り返し「死」のイメージが付き纏い、同時に「見てはいけないあれ」を見てしまう生=性の場でもある。そして、この経験が少年にとってのトラウマになるように、豊かになった日本人の傷跡が沈む場所でもある。この舞台設定も見事だ。
小栗康平は本作が映画デビューということだが、とてもそうは思えないほど、ショットごとの構図もつなぎもバチバチに決まっており、これぞ日本映画、という完成度で驚かされる。子役たちの演技も良いし、なんと言っても加賀まりこの妖艶な美しさが印象的だ。
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