ちろる

泥の河のちろるのレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
4.8
派手な演出は1つもなくて、際立ったドラマチックな展開もなくて、でも終わった頃にはとめどなく涙が溢れてくる。

モノクロなのではっきり分からないのだけど、灰色か緑の薄汚れた川と、そこにかかる大きな橋、煙の匂いが立ち込める夏祭りと花火など、日本映画ならではのテイストを多く含んだ秀作なのではないかと思うし、華やかなハリウッド作品はそれはそれで素敵だけだどこういう作品に出会うと日本人でよかったと思うのだ。
主人公ののぶちゃんの家も決して裕福とは言えない、うどん屋であるが、川を隔てて向こう側の船に住むきっちゃんたちとはとうしても超えられない壁がある。
だけどと子どもにはそんなことは関係ない。
遊びたいから遊ぶし、一緒に居たいから家に連れて行きたいしご飯たべたりしたい。
ただそれだけなのだ。
しかしどうにもならない残酷な現実はどうしたってつきまとう。
子供からみるショッキングな世界は建設的に考えることはできるはずもなく、ただ強烈にその印象だけがずっと脳裏にこびりつくのだろう。
また、決して見せたくなかった姿をのぶちゃんに見られた時の加賀まりこ演じるきっちゃん母のこぼれ落ちそうな茫然とした瞳も忘れられない。

せっちゃんがのぶちゃん母との入浴のシーンではじめて声を出して笑う。
何気ない微笑ましいシーンなのだけど、
きっちゃんの「姉ちゃん笑ろうとるなぁー」にどれだけの彼らの我慢が隠されているかと思うと涙を拭わずにはいられない。

流されるように遠ざかるきっちゃんの船にうまく声をかける事ができず、何をするべきなのかも心の収集がつかないままどうしてもぽっかりとあいた穴が多分一生埋まる事が無いのだと知る虚しさがじわじわとこちらにも伝染して、なんとも言い難い哀愁だけが後引く名作でした。
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