りっく

泥の河のりっくのレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
5.0
朝鮮特需に日本が沸く中、大阪の河辺も同様に貨物を運ぶ船で賑わいを見せる中、戦争に行ったことで人生が振り回された関わらず、特需も受けられずに河辺に取り残された人々の物語は、子役含めたキャストの深みのある表情、ロケーションの確かさ、そして決して彼らを見捨てることのない優しくも切ない眼差しによって日本映画史上に残る傑作に仕上がっている。

世間から取り残されてしまったからこそ、世間と迎合することよりも、世間から蔑まれる者たちを温かく迎え入れることを選択する親たち。そして、自分たちが置かれた立場を自分たちなりに理解し振る舞おうとする子供たち。各々の気遣いと思い遣りが交錯し、心を許し受け入れていく丁寧な描写の積み重ねは、素晴らしいものがある。

だからこそ、終盤の祭りの場面が効いてくる。子供たちだけで行ったにも関わらず、お金を落としてしまい、行き交う人々に踏まれながらも、地べたに這いつくばりお金を探し、祭りの賑わいから離れていく。ここで世間と自分たちとの距離を悟ってしまう様を、人気のない路地を歩くふたりの子供の後ろ姿に託す演出は見事。

その後、火を付けられたカニに誘われるかのように船の縁を伝い、窓越しに見てはいけないものを見てしまう一連の流れは、幻想的な光景と、加賀まりこの絶世の美しさも相まって、奇跡的な名場面だ。

世間だけでなく友だち同士もまた住む世界が違うことを、子供ながらに気付いてしまった別れの予感。そんな我が子の変化と成長をなんとなく察した親の眼差し、そしてラストの船を追いかけ河辺を走っていく様。そのどれもが本当に素晴らしい。
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