三四郎

風雲のチャイナの三四郎のレビュー・感想・評価

風雲のチャイナ(1933年製作の映画)
4.8
バーバラ・スタンウィックはため息が出るほど美しい。キャプラ監督はアカデミー賞を狙ったこの映画のヒロインにどうしてもバーバラを起用したかったのだろう。その気持ちよくわかる。まさに適役。

中国人男性とアメリカ人女性、粗野な男としての中国、宣教師で女神であるアメリカ。
通常のメロドラマの記号としては、国を表す男女が逆転しており(普通は、侵攻・宣教する側の方が男。例:『支那の夜』)珍しい組み合わせとなっている。さらに主題も実にユニークで現代の作品として観ても奥深いが、1930年代初頭の作品として観ると尚更優れているように思える。

実際にはかなり無理のある設定で矛盾があり破綻しそうでしない筋だ。いや、88分の映画にしては内容が複雑であり、消化不良を起こしかねないし、批評家から言わせると消化不良だと言われ、突けば突くほどボロが出る可能性の高い作品だ。逆に88分で終わらなければいけなかった作品でもあるだろう。

なんと言っても見どころは、前半から誇張されている通り、粗野であるはずの中国人イェン将軍が実は洗練されており、キリスト教を信じる女神であるアメリカ人女性バーバラが、最終的にはアメリカ人宣教師の婚約者ではなく、中国人の将軍を選ぶという当時のハリウッドではあり得ない筋。
→すなわち粗野な中国を宣教師として啓蒙しに来たはずのアメリカが逆に感化されるという図式になってしまっているのだ。勿論、そうなるまでにアメリカ人女性バーバラの「人を愛し信ぜよ そして許し給え」というキリスト教的訓えがあり、中国人イェン将軍はそれに感化された結果愛すべき人間になったのではあるが、バーバラがイェン将軍に信じるように言った中国娘は見事に彼らを裏切ったのだし、結局は中国人イェン将軍が正しかったとも言えるのである…。

イェン将軍の豪邸でバーバラがベランダの椅子に座り目を瞑るシーン。彼女の夢の中の幻想は単純ではない。心理分析が必要だ。なかなか興味深い演出で、この時の彼女の気持ちを映し出そうとしたキャプラ監督の趣味がよく理解できる。血も涙もない恐ろしい男だと思い憎みながらも、いや、だからこそ一方で彼の洗練された教養ある誠実な部分を敏感に感じ取り見つめてしまい惹かれるのだ。
よって彼女を襲うのもイェン将軍で彼女を救いに来るのもイェン将軍。
交通事故後のバーバラの科白からもわかる通り、最初の出会いから、彼女は彼の中にある洗練された誠実な部分を感じ取っていたのだ。もともとが心の綺麗な者同士なのだから二人が惹かれ合うのは当然のことだ。
最終的に、バーバラがイェン将軍に惚れたことにより、肉体的に滅びゆくイェン将軍は精神的には救われたと言える。

「何千年もの歴史がある中国を君たちは一夜で変えようとする。そんなことできるはずがない。生きているだけでも幸運だと思え」
実に深い名科白!1933年の時点でわかってるじゃないか!日本も欧米諸国も中国を甘く見過ぎ、見誤ったなぁ…。

冒頭から中国人に対する偏見甚だしく、欧米人の中国に対する蔑視に、同じ東アジアの人間として、思わず拳を握り締めたが、最後まで鑑賞し、感嘆感激感涙!さすが名匠キャプラ!
しかしツッコミどころ満載の映画だった笑笑
シャンパンは百歩譲るとして、桜じゃないだろう!中国は梅だろう!イェン将軍は桜の木が好きだった…って笑

タイトルが『風雲のチャイナ』になっているが、公開当時は『風雲の支那』。なぜ“支那“と表記しない?どうして史実を歪曲する?
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