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1492・コロンブスの一人旅のレビュー・感想・評価

1492・コロンブス(1992年製作の映画)
3.0
リドリー・スコット監督作。

15世紀末、アメリカ海域への西回り航路を開拓した実在の冒険家、クリストファー・コロンブスの半生を描いた伝記ドラマ。

大航海時代を代表する歴史上の人物、コロンブスの名誉と苦難の半生をテーマにした作品だが、「大航海中心の海洋冒険ロマン」のつもりで観てしまうと肩透かしを食らう。2時間半を超える上映時間の中で、未知なる大陸を目指し大西洋を横断する“大航海”シーンはわずか15分。劇中の大部分が、コロンブスが発見したグアナハニ島・イスパニョーラ島における原住民との交流・対立、教会を含めた入植地建設の過程、反コロンブス勢力による反乱とその後コロンブスを待ち受ける不遇な運命を描き出す。主演はフランスを代表する名優、ジェラール・ドパルデュー。女王イザベル役をシガニー・ウィーヴァーが演じる。
ちなみに、時代は異なるが純粋に大航海の壮大なロマンを楽しみたい方はピーター・ウィアー監督の『マスター・アンド・コマンダー』(2003)がおすすめ。こちらは“本物”の海洋映画です(※アクションまで迫力満点)。

本作はコロンブスによる新大陸(厳密にはアメリカ海域の島々)発見前の大航海の模様ではなく、“発見後”の半生を比較的史実に忠実に描いているが、原住民に対するコロンブスの姿勢と政策は事実とだいぶ異なる点が多い。
劇中のコロンブスは原住民に対し寛容的な態度を取り、白人入植者による原住民殺害を断固として容認しないなど、善玉的白人として描かれている。原住民を容赦なくいたぶる悪役はコロンブスとは別に設定しているが、史実では、コロンブス主導で原住民の財宝略奪、強姦、殺人、虐殺が繰り返し実行されている。
西欧人に新世界への道を切り拓いた“偉大な人格者”としての側面が強調的に描かれており、原住民側から見た“欲深く暴虐武人な白人侵略者”としての真の側面は随分薄い印象だ。
ただ、出航前にコロンブスがヨーロッパの白人世界で目撃した、人権を蹂躙する魔女狩りの風景が、新世界でコロンブス自らの手によって再現されるなど、一介の海洋冒険家が未知の地で絶対的権力者に成り上がっていく様が印象的に描き出される。

また、レコンキスタ(国土回復運動)によるグラナダ陥落、異端審問と魔女狩り、ルネサンス、地球球体説と地球平面説、コロンブスの航海を支援したスペイン女王イザベルとの関係性など、大航海時代における大航海“以外”のスペイン国内・国際情勢を知る上で重要なキーワードが盛り込まれているため、航海シーン自体は短くても充分に見応えがある。

演出面ではスローモーションの無意味な使用など、上映時間が長いぶん少し冗長さが目立つ。ただ、前方の霧が一気に晴れて奥から陸地が浮かび上がってくる、新世界発見の瞬間を捉えたショットは幻想的美しさがあり秀逸。監督も気に入ったらしく(?)、終盤にも同じショットを挿し込んでいる。
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