ネネ

ファントム・オブ・パラダイスのネネのレビュー・感想・評価

4.0
『ファウスト』『オペラ座の怪人』『ドリアングレイの肖像』などの設定を、あろうことか闇鍋で煮込んでしまったロックンロール・ミュージカル。
音楽という夢のために魂を売り渡し、ファウストと契約した者たちの物語です。

壇上では売れっ子バンド「ジューシーフルーツ」のメンバーが、軽快かつポップに、とある男の悲劇を歌っている。
その舞台を見下ろせるVIP席では、フィルビン( ジョージ・メモリ)が大物プロデューサー・スワン(ポール・ウィリアムズ)に向かって捲し立てていた。
「訴えてやったさ。悪質な契約違反でね。でも負けた。終身契約がばれたんです。……悪質なのはあのアマだ。俺じゃない!」
「私にどうしろと?」
「潰してください」
男は始終カメラ目線。
逆にカメラのこちら側にいる聞き役、スワンの姿はまだ映らない。
明らかにゴッドファーザーの冒頭をオマージュしたシーンですが、フィルビンの主張する内容が本家とは大違い。
逃げた歌手を潰してやりたい、とは。
なんてしょうもない男なの、フィルビン。
でも逆にこの薄っぺらさが、いい味を出しています。

本作の中では、ものすごい悪行も、ゾッとするような不幸も、3倍速のようにジャカジャカと走りすぎていきます。
無名のミュージシャン・ウィンスロー(ウィリアム・フィンレイ)は、盗作され、話し合いを求めても会社(デスレコード)を追い出され、冤罪で捕まり(シンシン刑務所)、歯を抜かれ、声を失い、顔を焼かれて、怪物ファントムへ辿り着きますが、ここまでもかなり高速でした。
まったくとんでもない映画です。
最高です。
ネーミングセンスも最高です。

「人生なんて他人からしたらこんなもの。3倍速にして薄っぺらくして、流し見をする程度で十分」
そんな皮肉めいたメッセージも感じつつ、だからこそ楽しく歌って、ギラギラ演出して、とびきりのブラックな笑いで飾りたてたところに、人間に対する優しさを見た気がします。
それにしても悲劇を加速させると、馬鹿馬鹿しくて愛すべき笑いに到達するんですね……。面白いなぁ。

ところでブライアン・デ・パルマ監督。
『アンタッチャブル』『ブラック・ダリア』の2本しかまだ観たことがない私としては、かなり衝撃的でした。
こんなキワモノ映画を撮る人だったとは……!
近いうちに観たいと思っている『キャリー』や『スカーフェイス』も楽しみです。

最後に。
すぐスワンに騙されちゃうファントムの、ビジュアルが本当に素晴らしくて。
またフィギュア化して欲しいです。
重要アイテムであり、彼の武器となったトイレのラバーカップ付きで!
ネネ

ネネ