ミサホ

サラエボの花のミサホのレビュー・感想・評価

サラエボの花(2006年製作の映画)
3.8
もう20年近く前に観た作品だけれど、久しぶりに鑑賞。

ボスニア紛争から10年経ったサラエボが舞台の作品。仲睦まじい母と娘の物語だけれど、母には、ひとりでは到底抱えきれない秘密がある。

紛争の痛ましさ。
犠牲となった女性たち。

娘はそんな母の思いを知らない。
紛争の“シャヒード”といわれる殉教者(つまりは名誉の死を遂げた者)の子供は、修学旅行の旅費が免除されるという。その証明書があればお金は要らないのだ。

娘は自分がシャヒードの遺児と信じている。

…にも関わらず、母は夜な夜な働きに出て資金繰りに奔走している。頑なに娘の父がシャヒードであることを認めない母の過去とは…

坂口尚さんの『石の花』という漫画にもナチスドイツ時代のユーゴスラヴィアが描かれていて、その時から、のちの独立紛争の火種は燻っていた。

そんな紛争の中で、物のように扱われ尊厳を踏みにじられた女性たちがいて、その傷が癒えぬまま、何事もなかったかのように時代は過ぎ去り、生きていかなくてはならない。

最後の娘の行動は、母に対する贖罪と敬意が溢れていて、母と共に生きていく決心の表れだったように思う。

母にとっては墓場まで持っていきたい秘密であったろう。しかし、それが娘との距離をぐっと引き寄せたひとつのきっかけにもなったに違いない。一番効果的なセラピーだったに違いない。
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