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『しかし それだけではない。 加藤周一 幽霊と語る』に投稿された感想・評価

4.0
加藤周一と云えば護憲派左翼の耄碌爺くらいにしか思われてないかも知れないが、そしてそれはその通りかもしれないが「しかし、それだけではない」。加藤の年月を経た人間の重みが伝わって来る映画。評論家がこんなにかっこ良く主演を演じた映画は他にない。
いつも言っているが加藤周一の謂うところの「一般的日本人」など存在しない。しかし、この知性は雑種になることでしか勝ち得ない。その塊のような映画。
Gan
3.9
「このままいつまでも永久に続くと私は思いませんね、このまま永久に続くとは思わない」

加藤周一と聞けば、とてつもない知の巨人で、難関大学の受験問題に頻出する男、というイメージを連想する。丸山眞男の文章並みに表現が分かりづらく、本気で読まなければ読めない。たった一文に多層的な知が凝縮され、かつ詩的な側面も多分に併せもつため、即席的な情報によって軟化した愚慮にはかなり効く。
そこで己を涵養しようという試み、文学史を学び直そうという志向から、氏の大著『日本文学史序説』を遅まきながら、辞書片手に苦労しつつ読み進めている。その過程で氏の映画があると知り、レンタルには無いためDVDを購入して鑑賞した。
見れば、制作にジブリが噛んでいる。嬉しい反面、先回りされたような謎の悔しさも覚える。
また貴様かという、してやられた感覚。

翻って最近、桑子敏雄『生命と風景の哲学』(岩波書店、2013)を読んだ。そこで語られたテーマに、「当事者が語り継ぐこと」がある。桑子は失われゆく生命の風景について、次世代に語っていくことが喪失の世代の義務と語った。印象的だったのは、失われたのは生き物だけではないという強調。即ち「命の風景」である。
氏を引用したのは、この点が加藤周一自身の思想、行為に同調するからである。
加藤周一もまた、戦死した友(中西)を背負い、一種の後ろめたさを感じながら、講演活動、評論活動を旺盛に続けた。その態度は、桑子の語るところに拠って、まさしく「喪失の世代の義務」を表象する。そして氏にとっての喪失は、微視的には戦争が齎した悲劇であり、大局的には明治維新後、国の経済的発展によって奪われた個人の尊厳、「人間的な」人間であろう。とりもなおさず、それは桑子が示した「命の風景」に近しい。

堀田善衛による警句、「歴史は繰り返さず、人これを繰り返す」。しかし我が国の碩学であった加藤周一は、それを無思考に肯んずることなく、人為によって未来を変えられると信じ抜いた。それが「学生と老人の結託 (自由を通じて)」の姿勢であり、九条の会の発足であり、語るという行為であり、言葉にして発信し続けた真意である。
加藤周一は、その膨大な知識/教養を、単なる思弁的な発展に結ばない。そこに留まることなく、書から顔を上げる。肉体を伴いながら、日本という島国から離れ、空から俯瞰して、ひとりの人間を見つめる。そこに時制、空間の抑制はなく、遥か太古の見知らぬ誰かと、知己かのように接する。ただただ、その心の橋渡しとして、深い知を活用するのである。これこそが本来的な知の在り方、と思い知らされる。自分を顧みず、他人を重んじ、学ばせていただくという姿勢。遥か未来の見知らぬ誰かを、それこそ知己として接するような優しさ、共時的な慈しみの眼差しを伴って。そこには普遍の、信頼の、安心の香りが漂う。真の知識人たる所以である。
その純粋で愛のある一挙一動に、氏が敬われる本髄を見る。

In Terra Pax / 地には平和を。

評価点は、映画そのものに対するものであり、加藤周一自身の評価とは、無論一致しない。

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