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太夫(こったい)さんより 女体は哀しくのotomisanのレビュー・感想・評価

4.0
 島原と云やあ御公家も通えば幕末の志士もしけこんでた。てなわけで京の遊郭の大名所、さぞ華やかな名残をとどめて、なんて思ったら目に付くのは巨大ガスタンク、聞こえてくるのは梅小路と丹波口の汽笛の大音声。ヌシと朝寝がしてみたいなんて艶っぽい寝言も吹き飛んでしまう。
 そうなったのも島原のせいじゃない。ただ、まさしく場末を狙ってあとから機関区は来るわ巨大市場は建つわ、ガス会社も好立地と根を張るわとなって、ここは近代化する古都の最先端工業地帯。祇園だ先斗町だのとの違いに監督も笑ってしまったろう。
 そんな島原にあるのが太夫道中で角屋が「国宝」になったとかで昼日中というのにデモンストレーション大公開。きらびやかな装いにこいつは観光資源にもなるかいな?と皮算用も忙しくと、そのとき事件が起こった。

 大門内の見物衆に紛れて乙羽:玉袖が馴染の似非主義者を刺して自分も喉を裂いて倒れる。やっちゃいけないのが心中のし損ない、ひとり助かった乙羽の無念は如何許りか。ついでにやられちゃ適わないのが、その日太夫デビューの淡路:喜美子なんだが、病室に乙羽を見舞うこの喜美子のノンシャランがいつもの通りで、考えてみると大名道具と謳われた太夫職が何で喜美子なんだというところ。まあ、ガスタンクも陸蒸気も革命前夜だってそうだが、そんな時代を迎えたここ島原という事だ。

 そういえば、乙羽が意気込む職場改善もあの似非主義者の入れ知恵なのか?また、似非風情が玉袖に入れ込めるのも玉袖のとりなしに違いあるまいが、似非男はというと玉袖をうまく篭絡したと思い込んでる。ところが、その玉袖のイロで留置場送りになってた男の保釈金をあの似非から融通してると来て、ああ分からないのは男女の仲。それが拗れて何故か玉袖は似非男と心中を企てる。
 分からないついでにもひとつ、あの喜美子を引き取るのに宝永楼は即金二万円の都合を下働きのばあさんの懐預金に頼むという。思いがけない置屋事情に啞然卒然だが、いかに儲かってないかというのか?期末払いならではの当たり前なのか?
 なんだか、ばあさんの給金は配当金とか言ってたりして、それとも金利による不労所得で賄われているよな、資本家は趣味で置屋勤めして革命勃発を恐れるとかの図式が頭をよぎって笑ってしまう。

 常識なんざ通用しない驚きと悪との隣り合わせなこの世界、要らぬ親父の捨て処が寄席なら、いらぬこぶ付き女は女郎屋に捨てろで喜美子代二万円をせしめた山茶花男が立派になった喜美子太夫とそうと知ってか我が娘にお愛想を使う結構な羽振りでどこの誰のヒモに収まってるやら。光あるうちに光の中を笑わにゃ、夜には夜で涙雨が降る。知った事かと夕闇を切り裂くあの汽笛にはもの哀しさの欠片も古都の風情も感じられはすまい。
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