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たそがれ清兵衛のikoanのネタバレレビュー・内容・結末

たそがれ清兵衛(2002年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

本当に素晴らしい映画です。藤沢周平原作、山田洋次監督。
真田広之と宮沢りえ主演。
脚本も演出もとてもいいんだけどこの2人がとにかく素晴らしかった。
宮沢りえのシーンは彼女が出ているだけで涙が出そうでした。いや、実際泣きました。
舞台は藤沢周平の小説にしばしば登場する庄内地方の架空の藩、海坂藩。所謂田舎の小藩です。主人公清兵衛はそこの御蔵役、禄高50石の下級武士。田舎侍です。
ヒロインのともえも武家で清兵衛とは幼馴染、そこそこの家に嫁いでいます。
幕末の小藩、家中のお家騒動に翻弄される平侍の悲哀、出世や功名なんかより遥かに重い娘達やともえに寄せる清兵衛の思い、窮屈で理不尽な家や身分制度、そんな中でも明るく振舞うともえの複雑な心情、それがリアリティーをもった且つ美しい映像、控えめな音楽、緩急ある見事な演出で語られていきます。見事です!
出戻った宮沢りえの登場シーン、仰々しさは全くありません、もちろんドラムロールもありません、でも物凄く美しいんです!こんなに淡々とした演出なのになんでこんなに美しく見えるんだろう!
薄給で内職を強いられつつも二人の娘と年老いた母との慎ましい生活、身なりに気を使う余裕もなく着物はボロ、髷も伸び放題、風呂にも入らずなんか臭う始末。そんな田舎侍の清兵衛がなぜか美しいんです!礼節を知り、謙虚で、自分を抑え、でも正義を重んじ自分の信じるものを信じる。そんな清兵衛が美しく見えるんです!そうなんですそこがいいんです!宮沢りえもそうなんです。武家の子女が禁じられている農民の祭りに清兵衛の子供達を連れて行き、時には姉嫁とも言い争いとなる、ちょっと進歩的で、でも節度を保った奥ゆかしさ。宮沢りえもそんな控えめな美しさを実に見事に体現していると思います!
なんか若い人達には理解し難いと思える不自由で堅苦しい制度の中での生き方…かく言う私もこんな世界はまっぴら御免ですが…でもそんな世界が宮沢りえと真田広之によってこの上なく美しくこの上なく悲しく描かれるんです!
で、この二人の儚い恋!
これがいいんです!本当にいいんです!
藩命を受け命のやり取り、果たし合いに臨まざるを得なくなる清兵衛。死を掛けた出立の身仕度を宮沢りえに頼むんです!応ずる宮沢りえ!淡々とそして甲斐甲斐しく清兵衛の身支度を整えていきます。終始無言の二人の動作が本当に美しいんです!そして清兵衛の告白!それを許さない事情!もう悲恋しかないですよ!
そしてクライマックス!
そう、このクライマックスがまたいいんです!殺しあう二人の侍、そのやり取り!本当に素晴らしい演出、それに応える真田広之と田中泯!凄いです!
私はもうてっきり悲恋で終わると思っていました。…ラストに宮沢りえが…。本当に見事な裏切りです。
クライマックスから後の話は私には正直蛇足に思えました。
いや、でも良かった!本当に良かった!
うん、きっとそれで良かったんだろう…。きっと…。
そんなラストでした…。
何度観てもそう思ってしまいます…が、でもこの映画が傑作である事は間違いありません!
脚本、演出、役者、音楽、映像、全て物凄いハイレベルなとんでもない作品と私は思って止みません!
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