Antaress

家族の肖像のAntaressのレビュー・感想・評価

家族の肖像(1974年製作の映画)
3.5
立川直樹さんのトークショー付きで鑑賞。
上映前にトークショーがあり、当時の舞台裏など色々興味深いお話が聞けた。

会えるかどうか分からないヴィスコンティに会いにローマまで行った話。ヴィスコンティの別荘は門から車で2、3分走ったところにまずメイドの家があり、そこから更に2、3分行くと屋敷があるとか。
そんな広〜〜〜い場所で育った様な人でないと狭い画角ではともかく、画面が引いた時に美しく見える作品は撮れないだろうとのこと。
私ら庶民がいくら映画学校で技法を習おうともあの美的感覚は身に付かないであろうと。
そうね、やはりヴィスコンティは一般人とは何もかもが違うもの。

何せ身分の違う者はお屋敷に入れないんですと。でも別荘だから立川さんは入れたってことかな。
トークショーの時間が短くてあんまり細かくは聞けなかったけど。

ヴィスコンティの死後、彼のお屋敷に行った時は使用人が全員集まってくれてヴィスコンティの生前と同様にテーブルセッティングをしてくれたとか。
ヴィスコンティは花も大好きで近所の花屋さんで毎日の様に大量の花を買っていたのでその花屋さんは非常に大きい店になっていたそうな。
ヴィスコンティの死後はどうなったのか気になるな。

これは有名なエピソードだけど別荘のヴィスコンティの部屋には彼の最愛の男ヘルムート・バーガーの写真が飾られていたそうだ。

ヴィスコンティの妻とも言えるバーガーだが実際の彼は耽美な雰囲気と言うよりマッチョでサーファーみたいなタイプなのだとか。
それがヴィスコンティの手に掛かると妖艶な男になってしまうと言うことらしい。

それと余談だが勿論、淀川長治さんも本作が大好きなのは有名。
そして立川さんがヴィスコンティに関する仕事をした時、淀川さんに褒められてずーっと手を握られた時は「凄く怖かった。どちらも(ヴィスコンティと淀川さん)もアッチの方ですからね。本当怖かった…」と(笑)

とにかくヴィスコンティは映画と私生活には金に糸目をつけず、映画スタッフは身内で固め、衣装など出来上がって来たものには殆どケチをつけなかったそうだ。←「黒沢と違って」だそうです(笑)

あ、トークショーのことばかりで映画の感想になってない。


本作は昔観た記憶はあるのだが映画館でかテレビで観たのかすら覚えていない。内容も98%失念していた。
初見当時はDQNな若いあんちゃんに振り回される老教授が気の毒くらいな感想しか持てなかった。

自分が初老となった今観るとまた違う印象。まあ教授が気の毒と言う感想は変わらないのだが…
だってわけわからん人達に突撃されなければ淡々と日々を過ごし哀しみに囚われることも無かったのに。

老人は意固地で変化を嫌う生き物なのはどこの世界でも同じ。反面寂しがり屋でもある。そしてそれを認めたくないのも有りがちで。

この教授はDQNマダムと彼女の連れて来た若者達を鬱陶しく思いながらも何やかんやと受け入れてしまう。
なし崩しに出来上がった偽物家族と言う構造は【万引き家族】のそれと良く似ている。
かたやブルジョワの人間と、もう片方は世間的に底辺と呼ばれる人達である。
でもどんな人物であれ大抵の人間は孤独を虚しく感じ【家族】を求めてしまうと言うことなのか。

家族の肖像の場合コンラッドが人たらしであったことが原因で人々を惹きつけ、最後には崩壊させたことになる。

コンラッドの特性は人間性と言うより性的な魅力が強いこと。
ブルジョワマダムは勿論、マダムの娘、ステファノ、そして教授までも彼を恋愛的な対象として惹きつけてしまった。
彼に性的魅力が乏しければこんな状況にはならなかったのではと思える。

【ベニスに死す】のアッシェンバッハは妖しい美少年タジオを見つめながら死んで行くと言う至福の死を迎えた。
しかし本作の教授は亡くなったコンラッドに恋焦がれ、病に臥したシーンで終わる。

復元する様に教授が要請していた上の階は結局モダンな部屋に改装されてしまった。にも関わらずそれに言及しない教授。
現代的な白い部屋と階下の重厚で暗い部屋の対比。

子どももおらず豪邸でひとり暮らす老教授に訪れた喧騒の日々は彼の最期の徒花だったと言うことか…
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