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静かな生活のtakのレビュー・感想・評価

静かな生活(1995年製作の映画)
3.5
伊丹十三監督作で唯一観ていなかった「静かな生活」鑑賞。レビューはあげてないけれど、これにて伊丹十三監督作完走。

公開された95年の9月。東宝系映画館があったアーケード街では、印象的な緑色の看板や宣材がたくさん掲げられていたのを思い出す。他の監督作とは違って原作ものだったこと、障害者と家族の生活が描かれると聞いてこれまでのような伊丹十三の毒気が感じられないのではないかと思ったことが理由で、観ることをなんとなくスルーしていたのだ。

それはとんでもない思い違いだった。伊丹十三監督作は、映画のテーマにまつわる実情を巧みに脚本に取り入れるから、絵空事でない面白さがある。本作でもそれは然り。毒気とほっこりが同居する不思議な感覚がある。さらに予想外にエグい描写まで含まれる。

障害のあるイーヨーと妹マーちゃんの関係は、ほのぼのしたエピソードもあって観ていてほっこりする。イーヨー独特の言語センスが面白くて、周囲の人々がいろいろ気付かされる様子が楽しい。両親の留守中に二人の保護者代わりを務める音楽家夫婦とのやりとりは、ここばっかり観たいと思える。絶対音感とセンスを持つイーヨーが作曲した曲のネーミングをめぐるエピソードが楽しくって。

しかし。二人をめぐる周囲の人々や挿入されるエピソードのどす黒さは他の伊丹作品の比ではない。障害者であるだけで不審者扱いされたり、満員電車で倒れて女子中学生に罵られたり。イーヨーが好きなテレビのお天気お姉さんからは「あなたは素晴らしいけれど、私はどうしてもボランティアになっちゃう」と言われる切なさ。それは日常的な厳しさでもある。山崎努演ずる作家の父親も、障害者の犯罪を扱った新聞記事を読んで「イーヨーにも発散する場を設けないと」とか言い出す。正論かもしれないけど、息子をどう見てるのかと思うとイラッとする。そして子供たちを置いて外国暮らしを始める始末。

イーヨーが水泳を再び習い始めることになり、コーチを引き受けてくれた人物。これがかつてある事件をめぐって容疑者と疑われた人物で、作家である父とトラブルがあったらしい。そして映画後半、イーヨーとマーちゃんに危機が迫る。

伊丹十三作品にエロはつきものだが、今回は不快な描写が多い。「タンポポ」や「お葬式」のようにユーモアを感じるものではない。嫌がる幼女にしがみつく不審者、小説に登場する性暴力シーン。そのエグさは観ていてけっこうキツい。さらに後半、今井雅之の登場でサイコホラーにも似た展開になっていく。

総じて観ればハートウォームなところが残るし、そこに障害者をめぐる現状を観客に認識させる仕掛けもある。「イーヨーが健常だったら」と言うひと言に、「私たち家族はそんなふうに考えません」と自然に言い返すマーちゃん。誰もがこんなふうに思うことができたら素敵なのに。いろいろあった両親不在の生活を絵日記にしたマーちゃんは、タイトル何がいい?と尋ねる。イーヨーの答えは「静かな生活」。それは、望んだけど得られなかった生活なのか、いろいろありすぎた日々を皮肉るものなのか。この程度のことじゃ動じないという強さなのかもしれない。

最後にひと言。お天気お姉さん役、緒川たまきサイコー♡。
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