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復讐 THE REVENGE 運命の訪問者のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 女子中学生の帰り道、家の門扉の前に不審者が座る様子を目撃した少女は恐る恐る我が家のドアを開ける。中には借金の取り立てに怯えた父母がおり、厳重に鍵をかけて小刻みに震えている。だがベランダの鍵が開いていて、外から宮地茂治(清水大敬)が土足で踏み込んでくる。玄関のドアを開けてやれとプレッシャーをかける茂治の姿に怯えた母親は、階段の上の方で恐る恐る1階の様子を伺う息子を2階の押入れの下の段に隠す。今は持ち合わせがこれしかないと命乞いした父親を、宮地知治(六平直政)は躊躇なく撃ち殺す。娘、父親、母親を次々に銃で撃ち殺した宮地兄弟は2階で微かに聞こえた物音に聞き耳を立てる。兄の茂治は息子の部屋に踏み込み、机の上にあった拳銃のおもちゃを手にし、勢い良く襖を開けるとそこには息子が震えながらしゃがみ込んでいた。粗暴さを見せる弟に対し、どこか情に甘く臆病な兄は彼を手にかけず逃がすのだった。それから数十年後、両親と姉を借金取りに惨殺された安城伍郎(哀川翔)は、覚醒剤捜査担当の刑事として働いていた。あるシャブ中の男を追跡していた安城は、その過程で犯人を自殺に追い込んでしまった。男の遺体確認のために現われた身元引受人・宮地茂治こそ、あの時自分を見逃した犯人であると、安城は気付く。家族を殺害したのは、茂治の弟・知治だった。

 『勝手にしやがれ!!』シリーズ6本の成功の後、黒沢清が主演・哀川翔で再び手掛けたのは硬質な刑事ドラマに他ならない。幼い頃、家族を皆殺しにされた少年は正義に目覚め、刑事を志すが彼の心の傷は癒えていない。妻の冴子(大沢逸美)と所帯を持つ安城は、刑事の命とも呼ぶべき銃を撃つことが出来ずにいた。宮地兄弟は表向きはクリーニング屋を営みながら、慈善事業として刑務所から出所した連中の保護司を務めている。だがその裏の顔は殺し屋代行業者として、暴力団の大石組ともつながりのある闇組織だった。刑事として何度か宮地家を揺さぶる安城の姿に怯えた一家は、安城の妻を誘拐し、殺害を企てる。最愛の妻を助けるために警察に辞表を提出し、クリーニング屋へ向かった安城と知治の互いに撃たれない銃撃戦は、イエジー・カワレロヴィッチの『影』への堂々たるオマージュである。彼らの放つ弾は決して互いの肉体に当たることなく、その隙をついて知治はクリーニング屋から逃げる。しばらくその場に立ち尽くす安城だったが、彼の復讐のための追跡は次第にエスカレートしていく。ラスト・シーンの銃撃は物々しいアクションに見えるが、構図も何もかもが実に様式的であり、非現実的アクションに帰結する。彼らは虚ろな目をしながら、互いに銃を向け躊躇なく引き金を引く。一発で勝負はついたかのように見えたが、どういうわけか一人が起き上がり、トドメの発砲をするのである。復讐を終えた哀川翔の表情はどこまでも暗く、陰惨に見える。彼には銃撃戦後の爽快感や復讐を終えた安堵感などどこにもない。そこには鉛の弾を撃つものの言いようもない怒りと悲しみだけが、彼の凶弾に倒れた屍とともに無残に横たわっている。
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