オトマイム

チェチェンへ アレクサンドラの旅のオトマイムのレビュー・感想・評価

4.4
素晴らしかった。
アレクサンドラがチェチェンの駐屯地にいる孫を訪ね数日間過ごしまた帰る、それだけの話。けれど彼女のイノセンスと優しさが胸に深く届き、さまざまな感情が去来する。

この作品が素晴らしいのは、殺し合いの戦場や一般市民が苦しむ姿は一切描かれずに戦争の愚かさが伝えられている点にある。アレクサンドラの目に映るのは若い駐屯兵たちの優しさやチェチェンの人びとの温かさ。そんな彼らの生活が有事には一変するのだろう。敵に銃を向けざる得ないだろう。その理不尽さが嫌というほど伝わるのだ。

高齢のアレクサンドラが土埃の駐屯地に出向くのにワンピースを着てピアスや指輪を身につけているのが印象的。それは彼女の気位の高さ・折目正しさを象徴し、同時に兵士に対する敬意の表明とも受け取れた。そして彼らもまた敬意を持って礼儀正しく彼女に接しているのはたいへん清々しく心打たれるものだった。

セピア色の映像の中、彼女と孫が同じ画面にいる時間は細切れでわずかだ。孫が祖母の三つ編みを解き再び編むシークエンスは傑出。

余韻が半端ではなかったのでいつもは鬱陶しい渋谷駅の雑踏をぼんやりと無感覚で通り過ぎ帰路に着いた。