かたゆき

ドッグヴィルのかたゆきのレビュー・感想・評価

ドッグヴィル(2003年製作の映画)
4.5
アメリカ、ロッキー山脈の寂れた高山地帯にある小さな村、ドッグヴィル。
15人の住民と7人の子供たちが暮らすこの質素な村にある日、ギャングに追われた美しい女性グレースが逃げ込んでくる。
村のリーダーを自認する倫理観の強い青年トムは、行き場がないという彼女を匿い、しばらく村に滞在してもいいと提案するのだった。
次の日、村の集会場でトムは、集まった住民たちに多数決をとる。
どこの馬の骨か分からない女に当初は難色を示した住民たちも渋々トムの提案を受け入れ、満場一致でグレースを受け入れることに――。
そうして始まったグレースと村人たちの共同生活。
戸惑いつつも次第にお互いのいいところを見つけ、少しずつ心を許してゆく彼ら。
和気藹々と平和的に暮らしていた住民たちだったが、ちょっとした些細な出来事をきっかけにそんな平和な日々が歪み始める。
村人たちは自らも自覚していないような悪意の目をグレースに向け始め、やがて村は悪夢のような世界へと変貌を遂げるのだった……。
数々の問題作を撮り続けるデンマークの鬼才ラース・フォン・トリアーがニコール・キッドマンをはじめとする実力派の役者陣をそろえて描き出すそんな地獄のような寓話劇。

体育館のような閉鎖的な空間に白線を引いただけのセットに役者たちを閉じ込めて描き出された3時間を超える物語は、その長さを全く感じさせない濃密なものでした。
とにかく脚本が素晴らしい。
最初はみな純朴で優しくて善良な人のように見える人たちが、後半、その心の奥底に隠していただろう嫉妬や憎しみ、欲望といった醜い悪意を弱い立場のグレースに向け始める。
この展開に少しも無理がなく、人間なんてこんなもの、そればかりか同じような立場に立たされたら自分すらこうなってしまうかもと思わせるところが見事としか言いようがない。
トリアーさんはやはり人間が嫌いなんでしょうね(笑)。

ニコール・キッドマン演じるグレースが村の人たちにいいように利用され、男たちは暇さえあればレイプするようになり、女たちは嫉妬心から蔑みの対象にする。
大人たちに感化された子供たちまでグレースを物のように扱い始める。
逃げ出そうとしたグレースを連れ戻した住民たちは、2度と逃亡しないように首輪を嵌め村に縛り付ける。
もはやグレースは犬と変わらない。それを誰もが正しいことをしていると信じて疑わないところが怖い。

まさに、地獄。

そんな悪夢のような世界を唐突に終わらせるラストのカタストロフ。
「どうだい、スカッとしただろう。クソみたいな人間は殺して当然なんて思っている君たちも結局、他人から見ればこのドッグヴィルの住民と大して変わらないんだぜ」とまるで画面の裏側でほくそ笑んでいるような監督の悪意……。
人間の愚かさをこれでもかと見せつけてくるラース・フォン・トリアーの傑作でした。
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