SANKOU

ストレンジャー・ザン・パラダイスのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

小説で言うところの余白、そしてシーンごとの余韻がたっぷりとあるアメリカ的ではないアメリカ映画だった。
誰もが憧れる自由の国というアメリカのイメージを覆すような退廃的な作品でもあり、でもどこかユーモラスで憎めない登場人物たちの姿に好感を持てる内容でもあった。
祖国であるハンガリーと本名であるベラという名前を捨ててニューヨークで暮らすウィリー。そんな彼の元へハンガリーからエヴァという従妹がやって来る。当初ウィリーはエヴァの滞在は一泊だけで、その後彼女はクリーヴランドに住むおばさんの家に向かうと聞いていた。しかしおばさんが入院することになってしまったので、エヴァはそのまま彼の部屋に10日ほど滞在することになってしまう。
ハンガリー語を耳にするだけでも嫌な顔をするウィリーは、初めは会話も成立しないエヴァに対して冷たく当たってしまう。
しかし同じ時間を過ごすうちに、徐々に彼はエヴァに親しみを感じ始める。
ウィリーのギャンブル仲間であるエディもエヴァに対して好意を抱く。
ウィリーはエヴァへの餞別にドレスを用意するが、彼女はあまり気乗りしない。それでも渋々ドレスに袖を通して、ウィリーに別れを告げる。ウィリーはエヴァに「また会えるよな」と名残惜しそうに問いかける。外に出るとエヴァは早速ドレスを脱いで屑籠に捨ててしまう。
一年が過ぎて、いかさまで金儲けをしたウィリーとエディは借りた車でクリーヴランドへ向かう。目的はエヴァに会うことだ。
久々に会ったおばさんは二人を温かく迎えてくれるが、口から出てくるのはハンガリー語ばかりで、話が通じているのかどうかは分からない。久々のエヴァとの再会だがそれほど感動的でもなく、むしろ彼女は初めウィリーたちは何かトラブルを起こしてニューヨークを飛び出してきたのかと勘ぐってしまう。
何故かエヴァの恋人とのデートに同伴することになったり、ポーカーをしたり、凍った湖を見に行ったりして、彼らは何ということのない日常を過ごす。
やがてニューヨークに帰る日になるが、思った以上にお金を使わなかったので、彼らは再びおばさんの家に戻り、エヴァを連れてフロリダへ向かうことになる。
エヴァに対して過剰なまでに干渉するおばさんは、何を言っているかは謎だが散々ハンガリー語で彼らにまくしたてる。最後に「Son of a bitch!」と英語でぼやく姿が滑稽だった。
意気揚々とフロリダに入る三人だったが、そこでの生活もバカンスとは程遠いものだった。ウィリーが宿代をケチったせいでベッドの数が足りなくなり、初めウィリーはエヴァに折り畳みの簡易ベッドを渡すが、結局そのベッドを使うのはエディになる。
何だかんだ悪態をつきながらも、収まるところに収まる彼らの姿が可愛らしい。
あくる日エヴァが目を覚ますと、何故かウィリーとエディの姿がない。寂しげに風が吹き荒れる海辺で一人過ごすエヴァ。やがて彼らは帰ってくるが、どうやらドッグレースで有り金を全部掏ってしまったらしい。
気持ちが収まらないウィリーは、再びエヴァを置いてエディと競馬に出掛けてしまう。
再び一人ぼっちになってしまったエヴァは土産物屋で買った帽子を被り、海岸を散歩する。その姿を麻薬密売人と間違えられて、彼女は大金を渡されてしまう。
このあたりの予想外の展開が面白い。彼女は大金の一部とハンガリー語で書き置きを残して宿を出ていく。
競馬で大儲けして戻ってきたウィリーとエディは、エヴァが空港へと向かったことを知り、彼女を連れ戻すために車を走らせる。
一方空港ではエヴァがヨーロッパへ向かう便を探しているが、本日中に離陸できるのはブダペスト行きの便だけである。
またハンガリーに戻ることになるのかと、彼女は躊躇する。
遅れてやって来たウィリーは、案内係からエヴァがブダペスト行きに搭乗したことを聞き、彼女を呼び戻すためにチケットを一枚買って搭乗口へ向かう。
駐車場で待っていると告げるエディだが、やがてウィリーがそのままブダペスト行きの便に乗って離陸してしまったことに気がつく。
そして三人が泊まっていた宿に、再びエヴァは戻ってくる。ソファーに腰かけた彼女は物憂げな表情でベッドを見つめる。
何とも言えない余韻を残す映画だ。とりたてて特別な事件が起こるわけでもないのだが、登場人物のちょっとした仕草や会話がおかしくて画面に引き込まれてしまう。
競走馬の名前に『晩春』や『東京物語』といった小津安二郎の作品名がつけられているのも面白かった。
モノクロの画面に音楽のチョイスも絶妙にマッチしている。
改めてアメリカが移民の国だということに気づかされる映画でもあった。
SANKOU

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